もっと気軽に学校の外に出る機会を
──複業や起業と言われると、少しハードルが高い印象があります。もっと気軽に始められることはないのでしょうか?
例えば、週末に地域の学習支援ボランティアに参加してみる、NPOや企業が主催するイベントに顔を出してみる、SNSで他分野の人とつながってみる。そんな一歩からでも十分です。
実際に「社会人でも参加できるインターンを探してみた」「土日に子ども向けワークショップをやってみた」といった事例もありますし、「先生以外が集まる勉強会に参加したことで、価値観が変わった」という先生もいます。
大切なのは、いつもと違うコミュニティに一歩足を踏み入れてみること。「ちょっと外とつながる」体験が、視野を広げるきっかけになり、日々の教育実践にも自然と変化をもたらしてくれます。
──制度面で難しさを感じる先生もいらっしゃるのではないでしょうか?
たしかに、正規の教員の場合は校務や勤務時間の制約もあり、「外に出たい」と思っても、なかなか一歩を踏み出せないといった声をよく聞きます。でも実は、先生を続けながら学校の外に出る方法はいくつかあるのです。
先ほどの二川さんの例では、教育委員会が用意している研修制度を活用して、企業のインターンを経験しました。そのように、今ある制度をうまく活用するのも一つの手です。
また、そもそも「公務員は兼業禁止」と思われがちですが、正しくは「禁止」ではなく「制限」です。条件を満たせば兼業は可能で、実際に講演や執筆、不動産経営などで活動している教員もいます。ただし、校長の了承、自治体の兼業許可基準、教育委員会の決裁と、複数のステップを踏む必要があり、その判断基準も自治体ごとに異なるのが実情です。
同じ内容でも「通るかどうか」がバラついてしまう、この制度面の不確実性こそが、大きな壁になっているのかもしれません。だからこそ今後は、現場の先生たちがもっと安心して外とつながれるよう、制度と文化の両面から整備していくことが重要です。
──こうした制度や文化が整っていくことで、先生たちのキャリアにも新たな可能性が生まれそうですね。
そうですね。これまでは「辞めるか、我慢して続けるか」の二択に近い状態だったと思います。でも本当は、その間にもっとたくさんのグラデーションがあっていいはずです。
また「学校=閉じられた世界」とされる固定観念が少しずつ外れていくことで、教員という仕事にも新しい風が入ってくると思います。結果として、キャリアに多様性が生まれ、その人らしい教員人生が描けるようになっていくのではないでしょうか。

おわりに
学校を「閉じた世界」にしないために、今求められているのは、教員が外の社会とゆるやかにつながり続けることです。「越境」の取り組みは、先生自身の視野を広げるだけでなく、学校に新しい風を運び入れる契機となります。一人ひとりの動きは小さいかもしれませんが、その積み重ねが、教育現場に多様な価値観や知見をもたらし、学校を社会とともに進化させる力になるでしょう。