導入の決め手となった「学生の声」
──東京女子大学のキャリア・センターでは、コロナ禍をきっかけにチャットボットの運用を開始したと伺いました。導入の経緯を詳しく教えていただけますか。
村石氏(以下敬称略):最初の緊急事態宣言が出る少し前の2020年2~3月ごろ、学内での企業説明会が相次いで中止となりました。当時の大学は「密」と言える環境だったので、学生がキャンパスに来られなくなるだろうという予測もありました。一方、学生の就職活動自体がストップするわけではないため、支援を止めることは許されません。キャリア・センターへの相談やカウンセリングは対面の窓口で受け付けていましたが、「この体制をすぐに変えなければ」という危機感がありました。
そのころ、すでにお付き合いのあった岡崎さんから、AIチャットボットとオペレーターを組み合わせたチャットカウンセリングシステムをご提案いただきました。普段からLINEなどのコミュニケーション手段を使っている学生にとっては親しみやすいツールであり、24時間いつでも相談できる。これは窓口の代わりとして有効だと思いました。
それから導入までは迅速でした。提案いただいた翌日に学生にアンケートを実施しました。本学のキャリア・センターはもともとLINEを活用しており、就職希望者のほぼ100%がキャリア・センターのLINEアカウントを友だち登録しているんです。「チャットのカウンセリングシステムがあったら、利用したいか」というアンケートに対して6時間で168件もの回答があり、98.2%が「利用したい」という意向でした。結果、提案から1週間でチャットボットの試験稼働に至りました。
キャリア・センターでのDXと言える取り組みはこれが初めてでしたが、岡崎さんはキャリアカウンセラーとしてすでに本学のキャリア講座を担当しており、品質に対する信頼がありました。積み上げてきた関係性があったからこそ実現できたスピード感だったと思います。
──導入時、気をつけたことや苦労されたことはありましたか。
村石:本学は個別相談に重きを置く文化があり、チャットボットによる自動応答システムへ切り替えることの是非を検討する必要がありました。「面接に必要なコミュニケーションの力を育成できなくなるのでは」といった懸念も少なからずあったので、関係部署の承認を得るために話し合いを重ねました。
実際の運用は、簡単な質問をチャットボットが巻き取るだけでなく、岡崎さんがチャットオペレーターとして相談を受ける形です。手厚い対応が必要なものはキャリア・センターで引き継げるようにしているため、先述の懸念は払しょくされました。また、アンケートで多くの学生からチャットボットのニーズがあることも大きな決め手になりました。
その後キャリア・センターの対応もZoomやGoogle MeetなどのWeb会議システム、電話といったリモート形式に切り替えました。現在も情勢を見つつ、オンライン・オフラインのハイブリッドで対応しています。
──チャットボットが充実した内容を返せるのか不安もあったと思いますが、実際はどれほど詳細に返答できているのでしょうか?
村石:学生からの質問の半分ほどは類似しており、「業界の選び方」「エントリーシートの基本的な書き方」「面接のマナー」といった内容です。これらの疑問はチャットボットで十分に解消できます。
岡崎氏(以下敬称略):チャットボットの回答の精度はかなり高いものです。と言うのも、大手就職情報サイトのチャットボットのデータに、東京女子大学独自の要素を加えて開発しているんです。キャリア・センターの利用方法はもちろん、エントリーシートの例文も東京女子大学の先輩のものをベースに作っています。