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キーパーソンインタビュー

「ビリギャル」だった小林さやかさんが考える、日本の学校が抱える課題と先生に伝えたいこと

 偏差値30の高校生が慶應義塾大学に合格するというストーリーを描いた「ビリギャル」。坪田信貴氏による書籍は大ヒットし、映画化もされた。そのモデルとなったのが小林さやかさんだ。現在小林さんは、コロンビア大学教育大学院で教育について研究しているという。なぜ、大人になった今のタイミングで海外の大学院に入学し、教育研究者となったのか。その理由と、小林さんが考える日本の学校教育の課題、そして日本の先生へ伝えたいことを伺った。

小林さやかさん
小林さやかさん

かつての「ビリギャル」が教育を研究する理由

──小林さんは現在コロンビア大学教育大学院で認知科学を研究されています。なぜ海外の大学で教育について研究しようと思われたのですか。

 一言で言うと「ビリギャル」を科学的に解説できるようになりたいと思ったからです。以前から、私は「このままずっとただの『ビリギャルのモデル』でいてよいのだろうか」と考えていました。

 ありがたいことにビリギャルは最初の書籍の刊行から10年近く経った今でも多くの人に覚えていただいています。ただ、日本のさまざまなメディアでお話しすると「ビリギャルと言っても、もともと頭がよかったんでしょ」といった反応をもらうことがよくあるんです。これは実に日本っぽい反応で、ビリギャルの映画は海外でも放映されたことがあるのですが、ほかの国で見られた反応とは少し違います。

 あるとき、映画を観たフィリピン人の女性と話す機会がありました。彼女は「私はあなたの映画がすごく好きだけど、ひとつだけ理解できない部分がある。あなたの挑戦をなぜ周囲の人は止めようとしたの? あれはフィクションでしょう?」と言っていたのです。私が「あれは本当のことだよ」と返すと、彼女は「なぜそんなことをするの? 他人の挑戦に口を出す理由がわからない」と目を丸くして驚いていました。そこで私は「これはちょっとユニークな反応かもしれない」と思い始めたのです。

 日本では成功した人を見ると「あの人はもともとその素質があっただけだ」と考える人が多く、非常にもったいないと感じます。しかも、大抵そのようなことを言うのは大人です。大人の発言を聞いた子どもは、「ビリギャルを読んで私も慶應を目指そうと思ったけど、小林さやかって人はもともと頭がよかったらしい。私はどうせ頭が悪いからできないし、無駄に夢を見させるな」と、あきらめてしまうんですね。なぜ、何もしていない段階で大人が必死に止めるのか私には理解できないし、がんばった結果、仮に望んだ結果が得られなかったとしても、目標に向かって努力することは必ず何かをもたらすと思っています。学習者としての成長は確実に得られるのに、それすら止めてしまうのでは誰も幸せになりません。

 この背景にあるのは日本の「失敗に不寛容な文化」だと考えています。ニューヨークに来て改めて感じたのは、アメリカは失敗に寛容で、挑戦する人をたたえる文化があるということです。もちろんどんな国にもさまざまな課題はあるのですが、マインドセットが日本とは違うことを感じます。

 高校時代の私も、人よりちょっと根性があるといった素質はあったかもしれないけれど、私にないものを持っている子もたくさんいますし、それぞれの人が持つ素質をどう活かすかは環境次第だと思うんです。私もビリギャルの著者である坪田先生に出会わなければおそらく大学には進学していなかったし、「もともと頭がいいんでしょ」と言われることも一生なかったはずです。本当にちょっとしたきっかけで、自分の強みを活かせる環境によって人生はガラッと変わります。

 私がビリギャルとしてがむしゃらにがんばれたのは「信じてくれる人」、つまり坪田先生や母が近くにいたからです。それだけは経験上言い切れるので、科学的な目線でもう少し説得力を持って説明できるようになりたいと思い、勉強することにしました。

 最初は日本の学校現場に入って、学校というものを見つめ直すことにしました。私は学校を、私を信じてくれない先生が嫌いなまま卒業してしまったので、先生でも生徒でもない、今の私の目線で「学校」を見つめ直したいと考えたのです。そして4カ月間、札幌の高校にインターン生として滞在しました。すると「当時私が感じていた学校に対する違和感や嫌悪感は先生のせいではないかもしれない」と思い始めたのです。そして、今学校にいる子どもたちも当時私が感じていたのと同じ負の感情を抱いていることにも気づきました。

 これはもう仕組みの問題だと考え、それを変えるという課題感のもと、2019年に聖心女子大学大学院に入学しました。こちらの大学には「学習科学」と呼ばれる、人の学びのメカニズムを理解して教育システムや社会の構築に役立てようとする学問の専門家がいらっしゃったので、その先生のゼミに入って学びました。

 そこでは1年半にわたって公立中学校と共同研究をする機会をもらい、「学校の先生の学習観が変わることで子どもたちの学びも変えられる」という仮説を検証しました。結論として仮説が正しいことはわかったのですが、それ以上に先生の学習観を変えることは簡単でなく、多くの障壁が存在することを痛感しました。例えば、古くからある学校の仕組みだったり社会の構図だったり……そして、これらのせいで学校の先生は悩み、苦しんでいることもわかりました。私は修士論文を書きながら、これはもう外から日本の教育を見つめ直すことが必要だと感じて、アメリカの大学院を受験することにしたのです。

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大人も学び続けることが大切、もちろん学校の先生も

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この記事の著者

森山 咲(編集部)(モリヤマ サキ)

EdTechZine編集長。好きな言葉は「愚公移山」。

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