アドビのツールを活用した「ARプロジェクト」事例
今回の基調鼎談では、クリエイティブ・リテラシー育成の取り組みを推進した奈良県教育委員会の関係者である、奈良教育大学教職大学院の小崎誠二氏、奈良県立山辺高等学校の松下征悟教諭を迎え、アドビの小池晴子氏とともに、現在は社会人として活躍する「当時の高校生」の話を聞きながら、今後の日本における創造性育成のあり方について意見が交わされた。
県内の学校を対象に、10年間にわたって創造性育成を推進している奈良県教育委員会。その取り組みのひとつとして、2016年に奈良県立磯城野高等学校で実施された事例が紹介された。
この取り組みはARアプリ「マチアルキ」を活用し、地元の名勝である依水園の観光案内アプリを作成するというもので、依水園への取材、テキストやARの作成などはすべて生徒たちが行った。「Adobe Photoshop」や「Adobe Illustrator」などを使い、グループで意見を交換しながら取り組んでいったという。
当時、指導教官として携わった松下教諭は「当校では造園について学んでおり、その中で依水園の見学をした際に木や建物などごとにさまざまなストーリーがあることに気づいた。しかし、景観がアート作品である園内で立て看板などの説明書きを設置することはできない。そこで生徒たちが『スマホで見ればいいのでは』と発想し、実現に至った」と語る。
教育委員会で取り組みを支援していた小崎氏も、「当時は『ICT教育』という言葉が広がりつつあったものの、まだ『クリエイティブ』の概念は浸透していなかった。一方で、アドビ製品を契約している一部の学校では、高校生が本格的に活用したらどうなるのか、また産官学連携でできることがないかと模索していた。ちょうど奈良県でICT活用の全国大会が開催されることもあり、若い先生ややる気のある先生に向けてチャレンジの場を用意したいと考えた」と振り返る。