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イベントレポート(STEAM教育)(PR)

ARプロジェクトが高校生の進路にもたらした効果とは? 創造性育成に取り組む奈良県の事例にみる

Adobe Education Forum 2022「Adobe Education Forum10周年記念鼎談 奈良県事例にみる創造性育成のこれまでとこれから」レポート

 アドビは、8月2日~4日の3日間、「未来をつくる教育のDX~新価値を創造する力 クリエイティブ・デジタルリテラシーとは~」をテーマに、教育関係者向けイベント「Adobe Education Forum 2022」を、オンラインで開催した。これから50年以上にわたり社会を生きていく子どもたちが自分らしく生き生きと活躍するためには、デジタルテクノロジーを活用し、創造性を発揮することが重要となる。イベントではそうした「クリエイティブ・リテラシー」について、さまざまな方面から多彩な知見が共有された。本稿では初日に行われた「Adobe Education Forum10周年記念鼎談 奈良県事例にみる創造性育成のこれまでとこれから」の模様をお伝えする。

アドビのツールを活用した「ARプロジェクト」事例

 今回の基調鼎談では、クリエイティブ・リテラシー育成の取り組みを推進した奈良県教育委員会の関係者である、奈良教育大学教職大学院の小崎誠二氏、奈良県立山辺高等学校の松下征悟教諭を迎え、アドビの小池晴子氏とともに、現在は社会人として活躍する「当時の高校生」の話を聞きながら、今後の日本における創造性育成のあり方について意見が交わされた。

左上から時計回りに、奈良県立山辺高等学校 松下征悟教諭、奈良教育大学教職大学院 教育DX研究室 学長補佐 小崎誠二氏、アドビ株式会社 マーケティング本部 本部長(Adobe Express&エデュケーション)小池 晴子氏
左上から時計回りに、奈良県立山辺高等学校 松下征悟教諭、奈良教育大学教職大学院 教育DX研究室 学長補佐 小崎誠二氏、アドビ株式会社 マーケティング本部 本部長(Adobe Express&エデュケーション)小池 晴子氏

 県内の学校を対象に、10年間にわたって創造性育成を推進している奈良県教育委員会。その取り組みのひとつとして、2016年に奈良県立磯城野高等学校で実施された事例が紹介された。

 この取り組みはARアプリ「マチアルキ」を活用し、地元の名勝である依水園の観光案内アプリを作成するというもので、依水園への取材、テキストやARの作成などはすべて生徒たちが行った。「Adobe Photoshop」や「Adobe Illustrator」などを使い、グループで意見を交換しながら取り組んでいったという。

生徒が作成した、依水園を紹介するAR案内コンテンツ
生徒が作成した、依水園を紹介するAR案内コンテンツ

 当時、指導教官として携わった松下教諭は「当校では造園について学んでおり、その中で依水園の見学をした際に木や建物などごとにさまざまなストーリーがあることに気づいた。しかし、景観がアート作品である園内で立て看板などの説明書きを設置することはできない。そこで生徒たちが『スマホで見ればいいのでは』と発想し、実現に至った」と語る。

 教育委員会で取り組みを支援していた小崎氏も、「当時は『ICT教育』という言葉が広がりつつあったものの、まだ『クリエイティブ』の概念は浸透していなかった。一方で、アドビ製品を契約している一部の学校では、高校生が本格的に活用したらどうなるのか、また産官学連携でできることがないかと模索していた。ちょうど奈良県でICT活用の全国大会が開催されることもあり、若い先生ややる気のある先生に向けてチャレンジの場を用意したいと考えた」と振り返る。

6年前のプロジェクトが現在の仕事にもつながる

 続いて、2016年当時の取り組みに参加し、現在は社会人として活躍する森川李奈さんがビデオで登場した。現在は金融機関のデザイン部門に勤務しており、フライヤーや名刺、Webサイトなどさまざまな制作物に携わっている。業務ではPhotoshopやIllustratorをはじめ、「Adobe XD」「Adobe Premiere Pro」などのデジタルツールを毎日のように使用し、プライベートでも愛用しているという。

奈良県立磯城野高等学校 卒業生 森川李奈さん
奈良県立磯城野高等学校 卒業生 森川李奈さん

 森川さんは「高校時代のARプロジェクトの経験が、自分の糧になっているのは間違いない。当時からさまざまなツールを使い、スキルの面でプラスになったのはもちろん、多様な人々と協働する経験が現在の仕事に生きている。今後もほかの人とコミュニケーションを取りながら、何かを一緒につくっていきたい。仕事でもプライベートでも楽しみながら学び続けて、その楽しさを次の世代にも伝えたい」と語った。森川さん自身も高校卒業後の進路で悩んでいたが、ARプロジェクトを機にデザインを学びたいと考え、大学への進学を決意。現在の仕事に就くこととなったという。

 その活躍ぶりを知り、小崎氏は「教育委員会は環境整備などの裏方仕事で苦労も多いが、報われた思いがする」と語り、森川さんが高校の情報科の教科書にも登場し、現在の高校生のロールモデルとなっていることを紹介した。そして「教育の現場でがんばっている先生だけでなく、ベンダーが優れたツールを提供してくれて、私たちが行う環境づくりがあって、その上で本人の努力もあり、大変幸せな効果が得られている」と語った。

 そしてもう1人、当時高校生だった小西奈菜子さんも、ARプロジェクトを機にデジタルツールに興味を持ち、グラフィックデザインの専門学校に進学した。その後2年間、漆職人としての修業を経て、現在は金継ぎ教室を開催しながら、漆の塗り直しなどの依頼を受けている。さらに並行して、2022年の日本伝統工芸展に出品するなど、漆作家として作品づくりにも積極的に取り組んでいる。その中で、プロジェクトを通じて出会ったPhotoshopなどのツールを、漆器のデザイン制作などに活用しているという。

奈良県立磯城野高等学校 卒業生 小西奈菜子さん
奈良県立磯城野高等学校 卒業生 小西奈菜子さん

 「デジタルツールを使うことで細かいデザインが可能になるので、今後もぜひ漆の作品制作に活用していきたい。漆の古典的なよさを活かしつつ、現代的なデジタルツールを活用することで生み出される新しい価値を追求していければ」と意欲を語った。

 松下教諭は2人のコメントを受けて、「このような形で卒業生の活躍を見ることができ、感謝でいっぱい。依水園で将来の夢を語っていた2人が、それぞれの夢に向かって歩き出し、活躍していることが何よりもうれしい」と語った。そして、プロジェクトを進める中で突然大学に行きたいと語りだした森川さん、大きな会場で発表することで自信がついたという小西さんのエピソードを紹介し、「それぞれが私が知らない世界で活躍していることが喜ばしく、さらなる成長を楽しみにしている」と語った。

ARコンテンツの制作に取り組む森川さんと小西さん(2016年)
ARコンテンツの制作に取り組む森川さんと小西さん(2016年)

 アドビの小池氏も「近年、PBL(問題解決型学習)などに教育のベクトルも変わってきているが、取り組んでいる間は、子どもたちのためになると信じつつも将来どうなるかを知ることはできない。だからこそ、実際に6年前に学んだ2人が、問題解決能力を発揮し、デジタルツールを駆使し活躍しているのはうれしいこと。私たちが教育プログラムやデジタルツールを通して『未来に必要な能力』として掲げてきたものが、お2人の中にしっかりと体現されている」と語った。

エバンジェリストによる普及活動で授業や校務に変化が

 奈良県でこれらの取り組みが始まったきっかけは、教員のICT活用スキルに関する全国調査で、同県は2010年より最下位に甘んじていた。そこで、県の教育長である吉田育弘氏は、当時指導主事を務めていた小崎氏に「先生が自信を持ち、チャレンジできる環境を整えてほしい」と要請し、2014年にMicrosoftやアドビとの包括契約を締結。さまざまなデジタルツールを活用できる環境が整備された。

教員のICT活用スキル調査結果グラフ(全国平均と奈良県平均の比較、および奈良県の順位)
教員のICT活用スキル調査結果グラフ(全国平均と奈良県平均の比較、および奈良県の順位)

 当初、現場では戸惑う反応が多くありながらも、松下教諭は説明会に参加し「ぜひ授業や取り組みで活用したい」と強く感じたという。磯城野高等学校は農業高校であるため研究発表の機会も多く、こうした場面でデジタルツールは特に有効だと考えたからだ。さらに、学校の公式マスコットの活用や、入学希望者に向けた学校紹介動画の制作、独自の教材作成などにも活用の場面を広げていった。

 一方で、現場からは「アドビのツールを使える人は限られるため、無駄になるのでは」といった不安の声も上がっていた。それを受け、小崎氏は現場の教員がより適切に指導ができるよう、旗振り役として「ICT活用教育エバンジェリスト」を20人ほど養成し、そこから広げていく仕組みを整えた。松下教諭もその1人であり、現在は情報教育における奈良県の代表者を務めている。

 そして、教員がデジタルツールを活用できるようになったことで、子どもたちの教育の場面だけでなく、校務にも大きな変化が表れたという。例えば、ICT活用教育エバンジェリスト育成研修の活動報告書である『ならえば』を冊子化したこともそのひとつだ。2016年度より、単なる文字だけの報告書ではない「Adobe InDesign」を使った魅力的な紙面の冊子に仕上げている。

ICT活用教育エバンジェリスト育成研修の活動報告書『ならえば』
ICT活用教育エバンジェリスト育成研修の活動報告書『ならえば』

 小崎氏は「写真から文章、レイアウトまで、素人だった先生たちが学びながら作成し、最後の印刷以外はプロの事業者を入れずに完成させた。さらに『集まらない』ことを前提に、クラウドを活用しながらリモートでやり取りを行い、作業を進めていった。内容だけでなく冊子そのものが、教育エバンジェリスト育成研修の発表作品とも言える」と語った。

 そして、2020年度よりスタートしたGIGAスクール構想の実現に先駆け、ICT活用教育エバンジェリストから「STEAM教育エバンジェリスト」に名称を変更。ICTに限らず、予測不可能な状況を生き抜くための教育として必要な「STEAM教育」全般へと対象を広げていくことを宣言した。現在メンバーは400人を超え、奈良県の教育を牽引する存在となっている。

 松下教諭もSTEAM教育エバンジェリスト研修を受け、「普通なら接点がない会社を見学したり、お話を聞いたりして、さまざまな視点で社会を見ることができた。刺激を受ける中で、授業やクラス運営そのものについての考え方も大きく変わった」と語る。

求められるのは「子どもたちが主体的に学び成長できる」環境

 GIGAスクール構想を受け、奈良県では小中学校で共通の環境をつくるべく、児童生徒に1人1台のChromebookを整備した。さらに教育機関が無料で使えるクリエイティブアプリ「Adobe Express」を導入し、一人ひとりのGoogleアカウントも取得。こうした環境は子どもたちにも浸透しており、プレゼンテーションはAdobe Expressでつくられているという。

 また、高校でも2021年に学校の高速通信環境が整備され、1人1台のChromebookまたはBYODが導入された。一方で各家庭のネットワーク環境には差があり、その是正は今後の課題となっている。Adobe Expressは高校でも全員が使える環境を整えており、松下教諭は「今後はクリエイティブな発表など、さまざまな体験をさせたい」と意気込みを語った。また、2025年より大学入学共通テストに教科「情報」が採用されることもあり、通常のネットワーク環境に加え「パソコンルーム」のような高速のネットワークとスペックの高い端末を備えた環境の整備も期待されている。

 ますます学校のデジタル環境が進化し、できることも増えていくが、松下教諭は「デジタルツールの使い方を教えようとすると、テクノロジーの進化についていくのが大変。それよりも、自分がやりたいことにまず取り組んでみることをおすすめしたい。そして『やってみたらできた』という成功体験を子どもたちに提供することが大切。そのためには、教員である自分たちも必要なことを体験し、常に新しいインプットを続けていく必要がある」と訴えた。

 また小崎氏も「今後の教育は『○○先生の授業』というように先生が教えるものではなく、子どもたちが自由に学び、成長できる環境を整えることが主流になる。主役は児童生徒であり、頼られる立場として先生も真剣に取り組む必要がある。これまでクリエイティブであることは『ちょっと変わっている』という印象があったが、今後は一人ひとりが各自のクリエイティビティを発揮する時代。自分を活かし、自分で決めて進む、1人ではできないから協力し合うことが当たり前になる」と語った。

 小池氏も「これからの10年に向けて、教育もどんどん変わっている時期。その中でクリエイティブ・リテラシーを育む教育とは、単にデジタルツールを使える力を身につけるためのものではなく、社会に出て活躍する力をつけ、クリエイティビティを発揮するきっかけとなる」と語り、鼎談のまとめとした。

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