
教育のICT化はVUCA時代を生き抜くための有効な手だて
埼玉県鴻巣市は、関東平野のほぼ中央に位置し、人口は約12万人。市内には現在、小学校18校[※1]と中学校8校があり、約8200人の子どもがいる。2021年4月から、市内の小中学校に1人1台のWindowsノートPCが配備され、「Microsoft Teams」を中心としたICT活用を行ってきた。
[※1]2021年度末に鴻巣市立笠原小学校が閉校し、小学校は全19校から18校となった。
昨年度まで鴻巣市教育委員会で教育総務課主任を務めていた新井亮裕氏は、民間企業や同市の情報政策部を経て、教育委員会に異動。以後、数年にわたって「鴻巣市学校教育情報化推進計画」の策定、教育情報基盤の刷新などを担当してきた(2022年度現在は出向中)。
新井氏は、まず教育の情報化を推進するに至った社会的背景として、33年前である平成元年の「世界時価ランキング」の話題からスタートした。
「平成元年におけるトップ20のうち14は日系企業だった。しかし、30年後の平成31年には、日系企業はゼロ。代わりに入ってきたのは『GAFA』と呼ばれるGoogle(Alphabet)やApple、Facebook(現在はMeta)、AmazonなどのIT系企業だ。国際競争力のトレンドが工業からICTにシフトし、より早い企業の変化が求められる時代になってきた」(新井氏)
こうした背景に加えて「VUCA World」と呼ばれる、将来の予測が困難で正解のない新しい時代へ対応すべく、教育のあり方を変化させていくことが求められているという。新井氏は「教育におけるICT活用がそのための有効なツールのひとつだ」と解説した。
ステークホルダーを巻き込みボトムアップで計画を遂行
鴻巣市は、2020年8月にICT機器がリプレイスされることを見越し、GIGAスクール構想以前の2018年から「教育ICT環境の刷新」を検討してきた。その際、教育委員会が中心となり、市長部局の関係課とも調整を行っていた。
「企画課や財政課、情報課などとワーキンググループを発足し、ボトムアップで前身となる環境整備計画をつくりあげていった。さまざまなステークホルダーを巻き込み、皆さんの力をお借りして、予算折衝や進め方を検討していったことが、予算を獲得できた大きな要因となった」(新井氏)
そして「教育ICTに注力したのは、すべては子どもたち未来のため」と力説。「鴻巣市で育った子どもたちに、新時代で活躍できる資質と能力を身につけてほしい。ICTを身近な道具として使えるようになってほしい」と述べた。

鴻巣市のICT整備のコンセプトは「教職員も子どもも、文房具のようにICTをいつでもどこでも使用できる」というもの。GIGAスクール構想を最大限活用し、「技術的にも、最先端のものを使う」「学習形態の変革も視野に入れる」「デジタル・シティズンシップ教育で行動規範を身につける、人財の育成」「働き方改革で教職員の負担を軽減し、子どもと向き合う時間を創出する」という、同市独自の施策である4つの柱が盛り込まれている。
