編集部注
文中でモデレーターの方のお名前が間違っておりましたので、訂正させていただきました。誤)森川氏→正)森永氏。
映像分析ツールを小学校の体育に
講演されたセッションは、スポーツ×教育のためのアプリケーションを開発するスプライザの「SPLYZA Teams(スプライザ・チームズ)」を体育の授業に取り入れたさいたま市沼影小学校の大橋太郎教諭、柏市立柏第八小学校の小溝拓教諭が、それぞれの経験を話すという内容。モデレーターは博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員 森永真弓氏が務め、スプライザの丸井剛氏(セールスチームマネージャー)も同席した。
沼影小学校の大橋教諭は、跳び箱を使った高学年の体育の授業で活用した例を紹介した。
導入として、有名な運動選手の動画などを見せて、跳び箱では踏み切り、着手、空中姿勢、着地と4つの局面が重要であることを説明。しかし、詳しく教えるよりも、マットの準備、片付け、手の着き方などの安全指導を重点的に行って、動画を撮りながらSPLYZA Teamsを使ってみることを促したという。
すると、子どもたちは撮影した動画を見ながらタグをつけたり、コメントを入れたり、と自分たちで動きを分析し、それを共有するようになったそうだ。
例えば、手をつく場所がどこだったら遠いところに跳べるのかなどを自ら見いだしていったという。「踏み切りの位置は前方向に跳ぶようにすると、うまく跳べるなど、気がついたことをクラスで共有していた」と大橋教諭。
「上手な子がいたらその生徒に許可を取って全クラスで共有し、それをモデルにする」といったことも行ったそうだ。
柏第八小学校の小溝教諭は、ハードル走でSPLYZA Teamsを用いた。やはり、ハードル間のリズム、踏み切りの位置、抜き脚などのハードル走のポイントを伝え、「自分がやるときはどこに気をつけようかなどの目標設定も各自に任せた」そうだ。
映像分析ツールと成績との関係──運動は苦手でも言語化できる子がスターに
映像分析ツールを使う前には想像もしなかった変化がいくつかあったようだ。
大橋教諭は「指導要領などにあるポイントは決まっているが、それを子どもたちが自分の言葉で解釈し、共有するようになった」と話す。また、「ある生徒が書いた言葉を他の生徒が吸収して自分の実践につなげるということが簡単にできた」とも。そして、「それまで運動は苦手だったがやり方を分かっている生徒の言葉を受けて、理解できていなかった生徒がどんどん真似をしてやるようになり、上達していった。跳び箱が跳べなかった子がどんどん跳べるようになっていった」と続けた。
それを受けてモデレーターの森永氏は、「これまで体育の授業は運動ができる生徒が『ヒーロー/ヒロイン』だったが、跳ぶのは得意でも言語化できない生徒が、跳ぶのは苦手だが発見力があり言語化できる生徒に助けてもらえるようなことが起きているとすれば、体育の授業が多彩になっている」とコメントした。これを森永氏は、「発見の楽しみを、発見する」とまとめた。
実際の成績への影響についてはどうか。森永氏は、体育の授業の指導要領では、1)知識と技能、2)思考力、判断力、表現力、3)主体性と態度、と大きく3つの軸があることに触れ、「アナリティクスを活用した結果の成績はどこに反映されるのか?」と尋ねた。
小溝教諭、大橋教諭がそろって挙げたのは、2)と3)だ。
「直接的な成果として見えるのは2)」という小溝教諭。「それまで自分の動きを見る経験がなかった生徒たちが、まず目新しさから興味を抱き、自分が思っていたのと違う、他の人とここが違うなどの気づきを、ツールを使って言語化し、可視化していく」と付け加えた。
大橋教諭も、「これまでも観察する画面はあったが、目の前で過ぎていくものをひたすら見ることは難しかった。じっくり考えないと答えが出せない生徒にとっては、(映像分析ツールは)止める、戻す、繰り返し見ることができるので、より詳細に思考が働かせられるようになった」と話した。
3)については、「言われたことをこなす、言われた動きを身につけるといった形の体育ではなく、自分の中で正解と考える動きを自分で探して見つけていくプロセスを主体性を持ってやれる」と小溝教諭は述べた。