ハイブリッド授業で音響面の課題が表出──未来を見据えた快適な環境づくり
立命館大学におけるハイブリッド授業環境の具体的な設備として、まず小教室はさまざまな目的で使われることから汎用性を重視し、以前から使用されていた教員の声を伝える仕組みに加えて、教員側・学生側・教材などを自由に遠隔側の学生に伝えられるよう、マイク・カメラ・スピーカーを三脚に乗せた可動式の機器を導入し、約500教室に展開した。
そして大教室については、対面講義と同様の臨場感を得るため、マイクの声やデッキ類の音を送信でき、また遠隔側の学生の声も教室内で拡声できるよう、音響システムを大きく改修した。さらに、板書カメラやOHCの一部は取り回しがしやすいよう1本のUSBで接続し、Zoomでキャプチャーできる環境を整えた。
なお音響システムには、エコーバックやノイズを抑制し、発言音量を均一に整えるなどの整音性能に非常に優れたDSP(デジタル・シグナル・プロセッサー)として、「Shure Intellimix P300」を導入。よりクリアで聞き取りやすい音声を実現させている。
このようにハイブリッド授業をいち早くスタートさせた同大学だったが、2020年度秋学期の後半からは教室内の学生の数も増え、換気を重視するために騒音が入りやすくなるなど、新たな課題も見えてきた。さらに語学の授業においては、オンラインで一人ひとり拾えていた声が広い教室では拾いにくくなるなど、ハイブリッド授業ならではの音響面の課題が目につくようになった。
これらの課題は授業の品質へクリティカルに影響することが明らかになり、改善策を模索することとなった。しかし、学生一人ひとりにマイクを用意することはコスト的・管理的にも現実的ではないため、2020年冬には天井設置型のアレイマイク(離れた位置から複数の発言者をカバーできる集音型マイク)「Shure MXA910」を設置し、実証を行った。倉科氏は「部屋のレイアウトを保ちつつ、対面授業における臨場感あふれる音をきれいに届けるための、ひとつの理想形ではないか」と語った。
こうした新技術を採用した音響システムを教室の基本機能とするには「邪魔にならないこと」「簡単に使えること」、そして「低コスト」で供給や耐久性に優れていることが求められる。実証を踏まえて2021年春には複数の教室でこれらの環境を導入し、2022年5月時点ではMXA910のほか、バータイプや卓上タイプのマイクを含め27教室へ導入されている。
さらに2023年には立命館アジア太平洋大学(APU)で新学部設置とともに、教学理念を体現することを狙った新棟をオープンさせることになっている。現在はオンラインと対面を組み合わせてグループワークを行う前提で、AV設備をデザインしているところだという。
倉科氏は「オンラインの利便性に負けない、学生や教員が新しい発見ができるような教室をつくっていきたい。そのためにも対面とオンラインの混合チームでブレイクアウトルームの議論ができるような仕組みを構築したいと考えている」と意欲を見せる。そして「多くの音響・映像機器は1人で使うことを前提に最適化されていることが多いため、Shureなど老舗音響メーカーとのパートナーシップのもとで、多人数でのコミュニケーションが行いやすい環境づくりについて挑戦していきたい」と語った。
衣笠キャンパスでのデモンストレーション
第27回FDフォーラムでは、立命館大学衣笠キャンパス敬学館の教室に設置された実機による、ハイブリッド授業のデモンストレーションが行われた。
幅・奥行10メートルの定員45名の教室には、カメラ一体型のスピーカーフォンが設置され、そこで収録された音声および映像が授業配信システムに取り込まれる仕組みだ。広角カメラを使用し、映像は教室の隅々まで見えるものの、ハイブリッド授業の開始当初、音声に関してはマイクから遠くなると不明瞭となり「聞き取りにくい」との声が上がっていた。
そこで天井に集音マイク(Shure MXA910)を設置し、加えて「ノイズリデューサー」と呼ばれる、不要なノイズを抑制する機能を用いることで、空調やプロジェクターなどが稼働する環境ながら、室内で均一・明瞭に音が聞こえるように改善された。さらに発表者用に有線マイクを設置し、発言と同時に天井マイクから自動的に切り替わり、より発表者の声が前面に出て聞こえるよう工夫も施した。教室にいる学生と教員の両方の声が、どの場所からもクリアに聞こえるようになり、快適な音声環境を実現できた。