ICT活用のコツは職員室での情報交換
最後に、鴻巣市立赤見台第一小学校の校長である大澤紀子先生と、教頭の赤沢直幸先生のお2人に話をうかがった。同校は児童数311名の中規模校で、各学年2クラスに加えて、特別支援学級2クラスがある。
鴻巣市は2021年1月から市内の小中学校5校を「ICTパイロット校」に指定し、1人1台端末の先行導入を実施。パイロット校に続き、赤見台第一小学校には同年4月に1人1台のWindowsノートPCが整備され、5月のゴールデンウィーク明けから本格運用を開始した。
導入の時期に合わせて、電子黒板や校内のWi-Fi環境も整備された。1年生と4年生の授業で使われていた「ブリタニカ・スクールエディション」は、ほかのデジタルドリルなどとともに鴻巣市内の全小学校で導入されている教材のひとつだ。
大澤先生は「私自身はICTに詳しくなく、昨年度から導入の準備は進めてきたものの、どのような教科や単元で活用すれば効果的なのかイメージが湧かず、不安な気持ちで始めました。導入当初は、先生方がそれぞれ実際にやってみて、どんな授業で使えるかを検証しながら少しずつ進めていきました」と話す。
同校がICT活用を順調に広げていった背景には、教頭である赤沢直幸先生の存在も大きい。昨年度まで先述した市内のICTパイロット校にいた赤沢先生は「自分の経験をもとに、効果があった活用法を先生方にどんどん伝えていった」という。
「デジタル教材については、各担任に使い方を委ねました。先生方から『このような使い方はOKですか?』という質問がたくさんきたので『大丈夫です!』と答えて、どんどん使ってもらい、課題があれば聞いて共有しました。特に1学期は『職員室でたくさん情報交換してください』とお願いしました」(赤沢先生)
同校では、もともと職員室で積極的に意見交換する文化があり、ICTに関しても活発な情報交換によって「それなら使ってみようかな」と自然に広がっていったという。結果としてデジタル教材を使う機会が増え、市内で積極的に活用している学校のひとつになった。
ICTに苦手意識のある先生への対応としては、詳しい先生やICT支援員が授業でサポートに入るほか、児童自身が学年を超えて教え合うなどの工夫を行っている。「6年生は1年生に教えることで、スキルの定着がはかれるというメリットもありました」と、赤沢先生はその効果について話した。
赤見台第一小学校でのICTの活用は本年度から始まったばかりだが、今後は活用状況に応じて、端末の持ち帰りも徐々に増やしていく予定だという。教育委員会の方針としても、持ち帰った端末とデジタル教材を使って、家庭でも子どもの興味を深掘りできるような環境を目指している。鴻巣市教育委員会の担当者は「『ブリタニカ・スクールエディション』は専門家がしっかりと監修しており、子ども向けに情報が整理されている点も魅力」と話す。
また、校長の大澤先生は「導入して半年ほどですが、子どもたちが意欲的になったことを感じています」と振り返る。
「ノートだとあまり書かない児童が、PCを使うことで楽しそうに授業を受けている姿を見ています。調べ学習においても、これまでは主に本を使っていましたが、現在は1人1台の環境で『ブリタニカ』を活用できるようになったので、子どもたちの学習意欲が上がったように思います」(大澤先生)
デジタルとアナログの使い分けでそれぞれの効果を高める
今回、埼玉県鴻巣市立赤見台第一小学校を取材して感じたことは、デジタルとアナログをうまく使い分けることが、効果をより向上させるということだ。
まず、豊富な情報や図版を有する「ブリタニカ・スクールエディション」などのデジタル教材で子どもたちの興味関心を自然に掘り下げ、インプットを行う。次に、年齢発達に応じた方法で、アナログでのアウトプットを行う。教科や学年を問わず幅広く活用でき、授業準備の軽減や個別指導の最適化といったメリットも生じる。
赤見台第一小学校は特別なICTの研究校ではなく、本年度から1人1台端末の運用を始め、これだけの成果を出すことができた。悩める公立校の先生方にぜひ参考にしていただきたい事例のひとつだ。