1人1台環境だからこそ自分専用の図鑑を持てる
「リリリリリ……リリリリリ」
「あ、虫の声がする……!」
教室に響き渡るエンマコオロギの声に、真剣な表情で子どもたちは耳を澄ます。
鴻巣市立赤見台第一小学校1年1組の生活科の授業では、子どもたちがWindowsのノートPCを使い、お気に入りの図鑑をつくっている真っ最中だ。
「『ブリタニカ』を見て、お気に入りの虫や花を見つけましょう」
1年1組担任の武井あずさ先生がそう呼びかけると、子どもたちは自分のノートPCの画面から迷いなく「ブリタニカ・スクールエディション」のアイコンをタッチし、色鮮やかな図鑑の中から思い思いに描きたいものを探しだす。
花を選んだ女の子は、慣れた手つきで2本の指を広げて画像を拡大し、細部までをまじまじと観察する。ある男の子は虫の動画を見つけると、隣の席の友だちに「これ見つけた!」と報告し、2人で動く様子を楽しそうに眺めている。一方、空をテーマに決めた子は、朝焼けの写真をじっくり見て「きいろとオレンジとあか!」と色を確認し、自分のクーピーを出して熱心に空の絵を描き始めた。
武井先生は「授業では、基本的には子どもたちに考えさせるようにしています。ただ、1年生ではまだ見通しを立てることが難しいため、最初のうちは、ある程度わかりやすい例に当てはめてから『こんなふうにやってみよう』と声かけをしています」と話す。
本時のめあては、生き物や植物を図鑑から探してみること。これまでの生活科では、春、夏、秋と季節ごとに校庭や公園のフィールドワークで花や虫を観察し、それらをカードに描くという作業を行ってきた。今回はそのまとめにあたるもので「1人1冊」のデジタルの図鑑を使いながら、1年生では「鉛筆やクーピーを使ってかく」という作業にも重きを置いている。
デジタルの図鑑を使うメリットとして、武井先生は「1人1台のPCに図鑑が入っているため、子どもたちはそれぞれ自分の興味あることを探すことができ、教員にとっても個々の指導が非常にしやすい」ことを挙げる。
「紙の図鑑もいいのですが、冊数が限られているため、グループで1冊となった場合に『こっちが見たいのに……』と、友だちとの折り合いをつけるのが難しい児童もいます。しかしデジタルの図鑑になったことで、同じ図鑑に興味のある子ども同士でグルーピングする教員の手間もなくなり、子どもたちも図鑑の順番を待つといった無駄な時間がなくなりました」(武井先生)
「子どもたちから知らなかった機能を教えてもらうことも」
探究的な学びを行う場合、1年生は何かを調べようとしても、本の索引から調べることが難しい。「紙の本では、ひたすらめくっていくことしかできませんが、デジタル教材であれば、写真をタッチして自分でどんどん探していくことができます」と武井先生は話す。さらに、黒板に書いても伝わりにくいものを説明する際、実際の写真や動画などをすぐに見せられる点も、デジタルならではのメリットだという。
授業では、1年生でも多くの児童が迷いなくWindowsノートPCを使い、画像の拡大などの操作も行っていた。学校だけでなく、日ごろから家庭でPCやスマホ、タブレットを使いこなしているようだ。
「とは言え、1年生はマウスを使って見たいところまでカーソルを持っていき、クリックするという操作はまだ難しいようです。そのため、画面をタッチして見たい項目にすぐ飛ぶことができる点は非常にわかりやすく、助かっています。授業で予定していたより先の情報を、児童がすでに見つけていたこともありました。子どもたちは触ってみることが好きなので、いろいろと試しているうちに新しい写真やページを見つけているようです」(武井先生)
教室で鳴っていた虫の声も、同教材に収録されているものを子どもたちが発見し、先生に教えてくれたことのひとつだという。
また武井先生は、今後の教材への要望として「現在は植物や動物が科などの分類になっていますが、低学年の児童にとってはやや探しにくい印象です。もっと簡単な『春の花』といった季節ごとの分類で代表的なものが載っていると、低学年の学びはさらに深まると思います」と語った。
高品質で使いやすいコンテンツにより、低学年でも安心して使える
授業で使用されている「ブリタニカ・スクールエディション」は、16万点以上の百科事典項目が掲載されており、1人1台環境下で、子どもたちは自分の興味関心の赴くまま、安心安全で質の高いコンテンツを参照することができる。
今回の1年生の授業においては、豊富な写真や動画、音声などが掲載された「図鑑」を活用した。図鑑には「昆虫図鑑」や「植物図鑑」などが用意されており、メニューには文字とあわせてそれぞれの写真も掲載されているため、写真をクリックすることで、低学年でも1人で自分が調べたい項目にたどりつくことが可能だ。
デジタル教材は子どもの興味関心を掘り下げやすい
続いて訪れたのが、4年生の理科の授業だ。4年生の「ものの温度と体積」の単元で、これまで実験などを通して学んだ金属や水、空気の性質についての総まとめの時間だった。
4年1組の担任である茂木勇人先生は、最初に学習の振り返りをし、3日後のテストに向けて「さらに詳しく調べてみよう」と呼びかけた。ここでも各自のPCにインストールされている「ブリタニカ・スクールエディション」を使用し、配付されたプリントに調べたことを記入していく。
茂木先生は「教科書には載っていないことがたくさん載っているので、それを見つけてみよう」と声がけしつつ「全部書いていたら時間がないので短くポイント絞って書く」「自分で大切なことを見つけて自分の言葉で書く」など、まとめるコツも児童にあわせて伝えた。
「ブリタニカ・スクールエディション」をはじめとしたデジタル教材を使うことのメリットとして、茂木先生は「興味関心を掘り下げやすいこと」を挙げる。
「関連する項目へのリンクがあるため、そこからたくさんの情報にたどり着くことができます。その上で、自分でまとめ、調べたい情報を取捨選択する学習が実現します。どの児童も集中して取り組んでいる姿が見られます」(茂木先生)
授業では、子どもたちがそれぞれ真剣な表情で画面に向かい、同教材を使って空気の性質などを調べ、配られた用紙に書き込んでいく。
茂木先生は教室内をまわって、一人ひとりの様子を確認する。「調べ方はみんなにまかせる」と伝えたため、迷っていたり作業が止まっていたりする児童には声をかけて、アドバイスを行っていた。
知りたい意欲は大切にしつつ個別指導で軌道修正
茂木先生は「ブリタニカ・スクールエディション」について、「理科や総合的な学習の時間などでよく活用しています。学年・教科別に学習マップが用意されているため、目的にたどり着きやすく、授業が組み立てやすいですね。ワークシートなどを活用することで、準備もかなり楽になりました」と話す。
総合的な学習の時間などでは、まず自分が興味あるものをインターネットで調べ、その次にデジタル教材を使って深く調べるといった授業も行っている。ただし、総合的な学習はテーマの幅が広いため、逆に何を調べたらいいのかわからなくなることもある。その場合は、何を調べていくのか教員が一緒に考えたり、範囲を限定してあげたりするといった対応を個々に合わせて行っているという。「情報選択能力を育てていくことがこれからの課題なので、この点は気をつけなくてはいけません」と茂木先生は注意点を伝えた。
では、探究学習などで児童が興味関心を広げた結果、最初のテーマから脱線してしまう場合はどのように対応すればいいのだろうか。
茂木先生は「今年の4年生は、いろいろなことを知りたい気持ちや意欲を持つ児童が多いため、その点は大事にしたい」と語る。その上で「自分で情報を選択し、今の課題につなげられる子もいるが、『いろいろな情報があっておもしろい!』で終わってしまう子もいるため、普段から児童理解をもとに、個別支援などを行っています」と、対応策を語ってくれた。
授業後、児童に話を聞いたところ「『ブリタニカ』はわからない言葉があったら、すぐ調べられる」「紙の本より、細かいところまでいろいろと載っているのがおもしろい」といった意見が挙がり、改めて子どもたちがデジタル教材を楽しんで使っていることが感じられた。
図鑑以外にも、探究学習で活用できる多彩なコンテンツを収録
「ブリタニカ・スクールエディション」は、1年生の授業で活用していた「図鑑」だけでなく、協働学習の指導案やおすすめの調べ学習マップ、ディスカッションに活用できるSDGsのテーマ集、グラフやデータ作成機能など、授業や探究学習で活用できる多彩なコンテンツが収録されている。
「先生用ガイド」には、教科別の学習の手引きや学習指導案の例も掲載されているため、デジタル教材の活用を始めたばかりでも授業を簡単に設計することができる。
今回のような調べ学習では、子どもたちは調べた項目に対して「もっと調べる」や検索機能を使い、自分の興味や知識を広げていくことが可能だ。好奇心を満たし、その先へとつなげていける体験は「自ら学ぶ力」を育むことも期待される。また、自ら問いを立ててその解決方法を探っていく探究学習においても、「ブリタニカ・スクールエディション」の豊富なコンテンツが大いに役立つ。
ICT活用のコツは職員室での情報交換
最後に、鴻巣市立赤見台第一小学校の校長である大澤紀子先生と、教頭の赤沢直幸先生のお2人に話をうかがった。同校は児童数311名の中規模校で、各学年2クラスに加えて、特別支援学級2クラスがある。
鴻巣市は2021年1月から市内の小中学校5校を「ICTパイロット校」に指定し、1人1台端末の先行導入を実施。パイロット校に続き、赤見台第一小学校には同年4月に1人1台のWindowsノートPCが整備され、5月のゴールデンウィーク明けから本格運用を開始した。
導入の時期に合わせて、電子黒板や校内のWi-Fi環境も整備された。1年生と4年生の授業で使われていた「ブリタニカ・スクールエディション」は、ほかのデジタルドリルなどとともに鴻巣市内の全小学校で導入されている教材のひとつだ。
大澤先生は「私自身はICTに詳しくなく、昨年度から導入の準備は進めてきたものの、どのような教科や単元で活用すれば効果的なのかイメージが湧かず、不安な気持ちで始めました。導入当初は、先生方がそれぞれ実際にやってみて、どんな授業で使えるかを検証しながら少しずつ進めていきました」と話す。
同校がICT活用を順調に広げていった背景には、教頭である赤沢直幸先生の存在も大きい。昨年度まで先述した市内のICTパイロット校にいた赤沢先生は「自分の経験をもとに、効果があった活用法を先生方にどんどん伝えていった」という。
「デジタル教材については、各担任に使い方を委ねました。先生方から『このような使い方はOKですか?』という質問がたくさんきたので『大丈夫です!』と答えて、どんどん使ってもらい、課題があれば聞いて共有しました。特に1学期は『職員室でたくさん情報交換してください』とお願いしました」(赤沢先生)
同校では、もともと職員室で積極的に意見交換する文化があり、ICTに関しても活発な情報交換によって「それなら使ってみようかな」と自然に広がっていったという。結果としてデジタル教材を使う機会が増え、市内で積極的に活用している学校のひとつになった。
ICTに苦手意識のある先生への対応としては、詳しい先生やICT支援員が授業でサポートに入るほか、児童自身が学年を超えて教え合うなどの工夫を行っている。「6年生は1年生に教えることで、スキルの定着がはかれるというメリットもありました」と、赤沢先生はその効果について話した。
赤見台第一小学校でのICTの活用は本年度から始まったばかりだが、今後は活用状況に応じて、端末の持ち帰りも徐々に増やしていく予定だという。教育委員会の方針としても、持ち帰った端末とデジタル教材を使って、家庭でも子どもの興味を深掘りできるような環境を目指している。鴻巣市教育委員会の担当者は「『ブリタニカ・スクールエディション』は専門家がしっかりと監修しており、子ども向けに情報が整理されている点も魅力」と話す。
また、校長の大澤先生は「導入して半年ほどですが、子どもたちが意欲的になったことを感じています」と振り返る。
「ノートだとあまり書かない児童が、PCを使うことで楽しそうに授業を受けている姿を見ています。調べ学習においても、これまでは主に本を使っていましたが、現在は1人1台の環境で『ブリタニカ』を活用できるようになったので、子どもたちの学習意欲が上がったように思います」(大澤先生)
デジタルとアナログの使い分けでそれぞれの効果を高める
今回、埼玉県鴻巣市立赤見台第一小学校を取材して感じたことは、デジタルとアナログをうまく使い分けることが、効果をより向上させるということだ。
まず、豊富な情報や図版を有する「ブリタニカ・スクールエディション」などのデジタル教材で子どもたちの興味関心を自然に掘り下げ、インプットを行う。次に、年齢発達に応じた方法で、アナログでのアウトプットを行う。教科や学年を問わず幅広く活用でき、授業準備の軽減や個別指導の最適化といったメリットも生じる。
赤見台第一小学校は特別なICTの研究校ではなく、本年度から1人1台端末の運用を始め、これだけの成果を出すことができた。悩める公立校の先生方にぜひ参考にしていただきたい事例のひとつだ。