大学とSASが共同で「データサイエンス人材」を認定
SAS Japanでは、教育支援に加えて、大学でデータサイエンスを学んだ人材のキャリア支援にも取り組んでいる。その一つが、SASと大学が共同で、SASに関するスキルを学んだ学生を認定する「SAS Academic Specialization」(旧、SAS Joint Certificate Program)だ。このプログラムでは、大学で提供される関連講義を6単位以上取得した学生に、大学とSASのロゴが記載された認定証、およびデジタル・バッジを発行する。国内では、滋賀大学、帝京大学、東京理科大学、同志社大学が、このプログラムに参加している。
SAS FORUM JAPAN 2020では、同プログラムに参加している大学のうち、帝京大学の事例が、同学大学院公衆衛生学研究科(SPH)講師の根本明日香氏(生物統計学担当)から紹介された。
帝京SPHは、2011年4月に設置された研究科で、2021年度で開講10周年を迎える。現在、専門職学位課程(MPH)と、博士後期課程(DrPH)で、26名が在籍している。公衆衛生学大学院の国際標準とされている、疫学、医療政策・医療管理学、社会行動科学、産業環境保健学、生物統計学の「基本5領域」において、問題解決のできる「Change Agent」となる人材の育成を行う。
各領域での問題解決にあたって、統計学的手法の活用は不可欠だ。同学では、特に生物統計学に関連した4科目(基礎生物統計学、応用生物統計学、データ解析演習、課題研究)の単位を取得し、基本的なSASプログラミングの習得と研究におけるデータ解析の実習を修了した学生に対して、SASとの共同認定資格である「Certificate in Biostatistics」の認定証を授与している。認定プログラムは2016年度に開始しており、2019年度までの4年間で、42名が同資格の認定を受けたという。
学生が実際にSASを利用したデータ解析を行うのは「課題研究」だ。課題研究では、公衆衛生上の諸問題の中からテーマを選び、問題の把握と分析、解決策の立案と実施、結果の評価といった流れによる「問題解決型アプローチ」で演習を行う。特に「問題の定量的把握」や「実施した対策の評価」といったフェーズでは、SASによるデータ解析が活用されている。
根本氏によれば「課題研究では、教材データによるシミュレーションではなく、実際のデータを使って、研究にデータ解析を活用する方法を身につける」という。これまでに課題研究で取り扱われたテーマとして、根本氏は「女性の生活習慣病リスクを高める飲酒と社会的要因の関係」「術後血中乳酸値と心臓手術後院内死亡の関連の検討」「中学生の食事摂取およびライフスタイルと心身の健康問題との関連性」などを例に挙げた。それぞれの研究では、各要素間の関連性について、単変量解析、多変量解析といった統計手法を用いた分析が行われている。
例えば「中学生の食事摂取およびライフスタイルと心身の健康問題との関連性」についての研究では、実際に1600名の中学生に対して、食事、ライフスタイル、心身の健康(SPSスコア)に関する調査を実施し、その結果を分析した。この研究では、調査対象となった中学生の生活において「食物繊維摂取量が多い」「夜12時には熟睡している」「睡眠時間が6時間以上」といった要因が、SPSスコア低値(心身の健康問題が少ない)ことと関連し、「嗜好品摂取量が多い」ことがSPSスコア高値(心身の健康問題が多い)ことと関連していることが、統計的に有意であったという。
同研究科のMPH修了生については、博士課程への進学のほか、医療機関を中心に、製薬企業、健康関連機関への就職を進路に選ぶケースも多い。根本氏は「帝京SPHのミッションは、社会における公衆衛生課題の解決を目指すリーダーを育成する教育と、実践に結びつく科学的研究を通じて、健康でより良い社会をつくり、いのちと暮らしを守ること。その実現のためにも、公衆衛生の5分野を学び、プログラミング型の統計解析ソフトウェアによる基礎的なデータ解析スキルを身につけた人材を育成することで、社会に貢献していきたい」と述べた。