フィンランドの「試験デジタル化」、その内容は?
フィンランドでは、学校内の定期試験に加え、2019年より高校卒業認定試験(Matriculation Examination)のすべての科目がパソコンを使ったICT環境で実施されています。今回の記事で注目するのは、後者の高校卒業認定試験。日本でいうとセンター試験のような試験なのですが、これがデジタルで運用されています。どのような経緯で導入され、そして関係者たちは何を感じているのでしょうか。
高校卒業認定試験(Matriculation Examination)とは?
フィンランド中の高校生が受ける全国共通試験で、日本のセンター試験(大学入学共通テスト)に近しい存在です。基本の4科目に加え、進学を希望する大学の学部にあわせ、科目を選択。進路が決まり切らない場合や複数受験する際は、7科目など多く受ける人もいます。
実施は春と秋の2回で、全て記述式。1日1科目、試験時間6時間で行われます。会場は、基本的に自身の高校の体育館や講堂です。
どのように運用されているのか?
決められた日時に、指定された会場で実施されます。自分のノートパソコンを会場に持参し使用する人が大半で、学校からの貸し出しも可能です。
試験は、インターネットではなく、配付されたUSBを使用して、ノートパソコンを起動させて行います。USBを接続すると、パソコンに入っているウィンドウズのソフトや記録等はすべてロックされ、開けなくなります。インターネット上での試験では技術的なトラブルが発生するため、このような方法が選択されています。オンライン運用(インターネットを活用した試験)というよりは、紙をノートパソコンで代用して行われる試験と言えるでしょう。
試験解答は、USBに保存され教員が回収。教員が採点した後、試験運営事務局にデータが送付され、ここで再度採点されます。
フィンランドの試験デジタル化の経緯
時間をかけて準備を進めていたフィンランド
フィンランドでは2016年から高校卒業認定試験のデジタル化が始まりましたが、実は実現に向けた動きは、それ以前から始まっています。
1990年代より総合学校(小中学校)および高校において積極的にICT改革が開始。続く2000年代に多くの学校に電子黒板、電子教科書等を導入され、さらに2010年には、タブレットやノートパソコンでの学習も日常的に行われるようになりました。このように時間をかけ、学校現場ではICT機器への慣れを醸成。ICTを用いた試験実施の土台を作り上げていきました。
対象範囲を絞り、教員も深く関与しながら始めた
それでもこの試験は、いきなり導入されたわけではありません。2016年にドイツ語、地理、哲学から始まり、2019年春の数学の導入をもって、全科目がデジタル化完了しました。
まずは比較的デジタル化がしやすい科目に限定し導入することで、問題と対処方法を確認。そのうえで全体の試験全体を移行させています。スモールスタートを意識している点が、非常にフィンランドらしい点です。
試験デジタル化の実施は、号令の中心はもちろん教育省ですが、その進行には現場の方々が深く関与しています。例えば、地域ごとに校長や現場の先生で3か月に一度集まり、どのように日々の学校生活で、生徒にICTに慣れさせていくか実践案を考えて取り組んでは、結果を検証。現場レベルでの試行錯誤が繰り返されていました。そして意見は適宜、運営事務局に伝えられ、試験の科目・運用方法に反映されています。またデジタル化にあたり、教員にも研修が必要となるため、生徒には月~金まで1週間オンラインでの課題学習に切り替えてもらい、教員が勤務時間内で研修を受けていました。