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生徒のモチベーションと学習の成果を向上させるため、教員には3つの役割が必要――品川女子学院の竹内啓悟氏が語る

品川女子学院 情報科教諭と考える 中学高校世代のプログラミング・デザイン教育への対応 ~公教育の限界と民間教育の可能性~

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2020/01/14 07:00

 社会を変革する「チェンジメーカー」となりうる人材が求められる中、STEAM教育や自律的な個別学習など、新たな教育のあり方が模索されている。そのカギとなるICT教育を実施し、効果を高めていくためには、公教育はもとより、地域全体でどのように対応していくべきなのか。そうした課題と解決策の共有を目的として、11月21日、デジタルハリウッド株式会社が展開する教育活性化サービス「デジタルハリウッドアカデミー」にて私塾を対象としたセミナーが開催された。今回は、品川女子学院で情報科主任として多彩な特別講座を実施し、ICT教育推進委員長として学校のICT導入を牽引した経験を持つ竹内啓悟氏が、自身のベストプラクティスと失敗、そこから浮かび上がる課題などについて紹介した。

品川女子学院 情報科主任 竹内啓悟氏
品川女子学院 情報科主任 竹内啓悟氏

企業との連携で特別講座を実施し、手応えを実感

 東京都・品川区にある中高一貫の女子校「品川女子学院」は、将来28歳になって活躍している自分を目標に生きる力や術を育む「28Project」を掲げ、さまざまな先進的な取り組みを進めている。例えば、高等部1年の各クラスが学内のファンドに文化祭でプレゼンテーションを行い、資金到達から利益配当まで行う模擬起業体験プログラム、企業と連携した特別講座など、内容は毎年更新され、挑戦的な取り組みも多い。

 同校で情報の授業を担当して5年目の竹内啓悟氏は民間企業出身。特別講座や起業体験プログラムも担当し、それぞれの取り組みについては現在もトライアル・アンド・エラーが続いているという。その中から5つの授業について紹介された。

 まず、竹内氏が初めて手掛けた特別講座「AIロボット『Pepper』のプログラミング体験」が紹介された。5年前、まだ市販されていなかった時期に2台のPepperを借り受け、生徒たちはワークショップを通じて「学校にいたらいいなと思うPepper」をを考案・プレゼンテーションし、そこで勝ち抜いたアイディアを分担してプログラミングする流れで授業を実施。その様子はPepperが一般発売される前日のニュースでも報道されたという。

 そして紅茶による集中力の変化を検証する特別講座では、ウェアラブルデバイスのIoTメガネを用いて、紅茶による集中力の変化を検証。「神経衰弱ゲームに勝つには何分前に紅茶を飲むのがベストか」といった生徒の自由研究を展開した。ほかにも文房具メーカーの中高生向け製品を考え、ショッピングモールで展示をするなど、さまざまな企業連携による特別講座を実施。これらの講座は対象学年をマルチエイジとしていることが特徴だ。

 その一方で、生徒が個別に集中して学ぶ講座も実施している。HTMLなどのコーディングだけでなく、LINEスタンプを作成して実際にリリースをしたり、スマートフォンゲームのデザイナーやプロデューサーと共にアイテムの考案・実装を行い、売り上げを競ったりした。

 ほかにもJR東日本との広告デザインコンペとして、駅ナカのワーキングスペース「STATION BOOTH」のプロモーション企画を実施。新宿駅と池袋駅で生徒たちが作成したデジタルサイネージ広告も流れた。

 そうした特別講座の中で、最も生徒の反応が良かったものが、デザイン会社と組んで行った「28歳の自分の名刺をデザインしよう!」だ。3日間で、10年後に新しくできる仕事を考え、その名刺をAdobe Illustratorで作成して実際に印刷、名刺交換まで行うというもの。キャリア教育からデジタルデザインまで複合的なテーマを盛り込み、大きな成果が得られた。この講座をきっかけに、Adobe Creative Cloudの導入につながったという。

「28歳の自分の名刺をデザインしよう!」で制作された作品
「28歳の自分の名刺をデザインしよう!」で制作された作品

 竹内氏は「企業と組むことで社会と直結した授業を行うことができる。『リアル』との連携は生徒のモチベーションを大いに上げる」と評し、「基本的なスタンスとして単に『誰から学ぶ』のではなく、『創造性の中に学びが入っている』ことが特徴」と解説した。

自分ごとからモチベーションを得て、創造性を発揮する学びに

 こうした「創造性」を軸とした特別講座を実施するにあたり、竹内氏は「生徒たちのモチベーションを上げることがカギになる」と語る。

 その方法を模索した事例として、高校1年生向けのビジネスプランの授業が紹介された。50分6回の授業の中で、220人が各自でビジネスプランを設計し、ピッチまで行うというもの。オリジナルの教材やワークシートが用意され、空欄を埋めていくとビジネスプランができ上がるようになっている。220のビジネスプランから選抜し、優秀プランは投資銀行やITベンチャー、クラウドファンディングなどの企業関係者50名ほど参加する中でプレゼンテーションを行う。中には実際に事業化までつながったものもあるという。

 例として2018年度の上位認定プランである、トラベルヘルパーのマッチングサービス「フリッピー(Frippy)」が紹介された。障がいを持つ弟がいる生徒が企画し、潜在介護士の活用まで見越した社会的価値の高さも評価された。また、ゴミになりそうな不用品「プレゴミ」を効率的に集め、新しいリサイクル市場を生み出す「ポイラビ(Poirubbi)」も生徒自身の体験が起点となっている。

 これらのビジネスプランの中から、最上位9名は一般向け・大学生向けのビジネスコンテストにエントリーすることになる。単に表彰で終わらせるのではなく、実際に社会とつないで事業化するためだ。これまでに数件が賞金獲得やサービスリリースまで至っている。

 ほかにも「映画の試写会」の開催や、近隣の商店街と交渉して「傘のシェアリングサービス」を開始するなど、さまざまな企画が実現している。特に後者の場合、ビジネスモデル企画のライト版の授業を中学1年生に展開したところ、生徒が自主的にJRや商店街と交渉し、実現させたという。

 竹内氏は「中学生は高校生よりもしがらみなどがないためか、やらせてみるとポテンシャルが高い」と語る。そして「創造性を発揮するためには、プログラミングにしても、ビジネスモデルコンテストにしても、まずは生徒たちの目的意識がなければ進まない。指導者としては『モチベーション』を持たせるための意識付けが最も重要だ」と話す。

 その意味で、前述の「28歳の自分の名刺をデザインしよう!」を機に2018年度に導入されたAdobe Creative Cloudは「形から」入った方法として興味深い。高校では必修科目の中でグラフィック制作を学び、毎週PhotoshopとIllustratorの授業が行われている。今年度は映画のストーリーから想像してポスターを制作し、優秀作品は展示されている。

 また文化祭においてはロゴマークや印刷物の作成など、発展的活用も見られた。事業者との打ち合わせではパソコンの画面を開きながらその場でIllustratorを使って修正し、「自分たちで作れる」という認識のもと、自主的に制作を進めるようになっていった。さらに学習管理ノートのデザインをオリジナルで制作して、文化祭で販売。900冊も売れたという。

文化祭で販売された学習管理ノート。デザインの変更も生徒の声から生まれた。
文化祭で販売された学習管理ノート。デザインの変更も生徒の声から生まれた。

 中学生にも、50分3回のピクトグラム作成授業を実施。「ソフトウェアの操作ができるのか」という教員の不安をよそに、「歩きiPad禁止」「悩みを聞いてくれる先生」「裏紙はこちら」などのさまざまなピクトグラムが誕生している。

中学生が制作したピクトグラム
中学生が制作したピクトグラム

 授業以外では「メディア研究会」といった同好会で、さまざまな作品が生み出されている。VRやプロジェクションマッピング、ステッカー、フリーペーパーなどを制作しているほか、学校から受験生である小学生に送るポストカードのデザインを依頼したところ、3日ですばらしい作品を完成させた。自分の受験体験を活かした「思わず飾りたくなるデザインにしたい」という思いがあふれるものとなっている。

思いが込められたポストカードをデザイン
思いが込められたポストカードをデザイン

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著者プロフィール

  • 伊藤 真美(イトウ マミ)

    エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

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