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イベントレポート(海外動向)

0と1が音を奏でる――世界が注目するポルトガルのCasa da Músicaによるデジタル音楽教育プロジェクト「Digitopia」

ポルトガルのDigitopia 音楽教育とEdtech


 Casa da Música(カーザ・ダ・ムジカ)はポルトガル第2の都市ポルト(Porto)に2005年に音楽公演だけでなく教育も目的に建てられた音楽施設だ。その教育プログラムは国際的に有名で、世界各国から音楽教育関係者が視察に訪れる。

 日本とも繋がりが強く、東京文化会館とパートナーシップを結んでおり、2013年から6年連続で開催されているワークショップ・リーダー育成プログラムのために日本に講師を派遣、また日本からも教育プログラムの指導者を研修のため受け入れている。

 今回は同施設の数ある音楽教育プログラムの中から、デジタル技術を活用した音楽教育プログラムである「Digitopia」が近隣の公立小学校で行っている出張授業「0+1=SOM」の模様をレポートしたい。

 講師を務めるのは作曲家のオスカル・ホドリゲス(Oscar Rodrigues、上図左)と、公立学校で音楽教師として10数年勤めた経験を持つティアゴ・オリベイラ(Tiago Oliveira、上図右)。2人とも複数の楽器を弾くマルチプレイヤーで、Casa da MúsicaのスタッフとしてこのDigitopia以外の教育プログラムにも多数関わっている。この日はポルトから車で40分ほどの距離にあるブラガ(Braga)市内の公立小学校の1年生~4年生を対象に授業が行われた。今回の授業は、週1回計4回行われる出張授業(いわゆるアウトリーチ)の2回目。場所は多目的教室で、授業時間は40分ほど。

 出張授業に2人はウクレレとクラリネット、そしてタブレットを持ち込んでいた。ポルトガルではピアノのない学校も多いそうで、日本の音楽授業のようにピアノありきではない(ちなみにウクレレはハワイへ渡ったポルトガル系移民がもたらしたものだが、元々弦楽器の豊かな文化を持った国でもある)。

ごく普通の授業の導入部

 学校に到着後、5分としないうちに子どもたちが教室に入ってきた。楽器をケースから出すぐらいで、馴れているのだろう、準備らしい準備もなかった。そんな2人による授業の導入部も少し紹介しよう。

 クラスが始まる前に教室の入口でハイタッチ。オスカルによるとポルトガルの教育現場で割と一般的なのだそうだ。

 授業の導入部分では輪になって、ウクレレを伴奏に踊りながら「フルーツの歌」を歌ったり、ジェスチャーによる伝言ゲームのような遊びを行う。ここまでEdTechはまだ出ないが、普通に音楽授業の良い導入になっていた。

音楽作りのための教材「0 + 1 = SOM」

 SOMとはポルトガルで「音」という意味。つまりこのプログラム名「0 + 1 = SOM」は、0と1を組み合わせて音にする、という内容を示唆している。

 これまでDigitopiaはさまざまな音楽アプリケーションをデスクトップ・モバイル両方で開発してきたが(Githubですべて公開されている)、最近はプラットフォームに左右されず利用できるようにするためブラウザアプリの形で開発するようにしていると言う。これは学校のさまざまなICT環境に対応でき、開発の時間やリソースを節約できる利点があるそうだ。

 前回の授業に続いて、今回は「セッション1」の部分を使ってリズム遊びの指導を行われる。前回配布された宿題プリントに児童は足踏み・拍手・指を鳴らすの3種類の音を使ってリズムパターンを作ってあらかじめ提出している。

前回の授業で配布された宿題プリント。8個の円が輪状に配置されており、円の中を色で塗りつぶしたり、音名を記入していく。一種の記譜になっており、一番上の円から時計回りに8拍子のフレーズを演奏していくシステムになっている。
前回の授業で配布された宿題プリント。8個の円が輪状に配置されており、円の中を色で塗りつぶしたり、音名を記入していく。一種の記譜になっており、一番上の円から時計回りに8拍子のフレーズを演奏していくシステムになっている。
セッション1の画面。ブラウザ上のアプリでは丸の中をクリックすると色で表示された3種類の音が切り替えられる(上の画像では一拍目だけが足踏み音が入力されている)。下部には再生ボタンや録音ボタン、右側の数字の丸は再生テンポ指定(1分間あたりの拍数)のための機能がある。
セッション1の画面。ブラウザ上のアプリでは丸の中をクリックすると色で表示された3種類の音が切り替えられる(上の画像では一拍目だけが足踏み音が入力されている)。下部には再生ボタンや録音ボタン、右側の数字の丸は再生テンポ指定(1分間あたりの拍数)のための機能がある。

 集めた宿題プリントの中から何枚か選び、それらのパターンを2人が演奏。児童はそのパターンを聞き、自分の作ったものかどうかを当てる。上の動画では、見事当てた児童の名前を発表、皆がその児童に向けて手のひらをひらひら動かして祝福している。

 「じゃあ、今度はこんなやり方でもリズムを作ってみましょう」と、黒板に0と1だけ8桁の数字を書き出したオスカル。「どうするか、分かるかな?」と児童たちに問いかけ、少し考えさせた後音符を書き加え、一緒に手拍子で演奏する。

 書かれたリズムを手拍子を打ち、ティアゴのウクレレの伴奏に合わせながら、さらに音階のドの音で歌う。プリントで塗りつぶした丸印、0と1だけの2進法、そして音符の3種類の形式で記録されたリズムの間を行き来する。

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リズム遊びから、少しずつフレーズにメロディを加える

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この記事の著者

類家 利直(ルイケ トシナオ)

スペイン・バルセロナを拠点として活動するジャーナリスト。音楽系テクノロジーや教育プログラム、Makerムーブメントなどについて執筆している。元々音楽教育が専門で、大学院ではコンピューターを活用した音楽教育を研究テーマに修士号を取得、青森県内の県立高校で音楽科教諭として勤務した過去を持つ。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


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