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オンライン家庭教師「manabo(マナボ)」が目指す「開かれた学び」とは――創業者の三橋克仁氏が語るEdTechの障壁と可能性

EdTechビジョナリーインタビュー 第5回

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2018/12/12 07:00

 アプリを通じていつでもどこからでも「わからないこと」を教えてもらえるオンライン家庭教師「manabo(マナボ)」。先生として登録する難関大学生約4400人に対し、2万8000名以上の生徒が利用、17万件以上もの指導実績を誇る。その創業者で、代表取締役社長を務める三橋克仁氏が2018年11月にその職を離れた。折しも6月には、駿台グループのエスエイティーティー株式会社に買収されてグループの一員となったばかり。これまでを振り返り、創業からの経緯と代表取締役退任における思い、そして今後の展望などについてお話しいただいた。

株式会社マナボ 代表取締役社長 三橋克仁氏(取材当時)
株式会社マナボ 代表取締役社長 三橋克仁氏(取材当時)

予備校講師での体験をもとに「manabo」を開発

――まず、「manabo」の構想に至った経緯や、学生で起業に至った理由などについてお聞かせください。

 一番の原体験は、参考書も気軽に買えないほど経済的に苦しい家庭で育ち、なんとか自分で工夫しながら勉強をし続けたことでしょうか。画家だった父の絵を校長先生に買ってもらうことで塾の費用を工面し、全国模試の結果を見た他の塾にスカウトされたことをきっかけに、特待生として無料で授業を受けていました。筑波大学付属高校に入学した後は野球に熱中し過ぎて1浪しましたが、東大理科一類に入ってロシア語を勉強し、将来は宇宙飛行士になるつもりでした。

 大学時代はアルバイトで予備校講師をやっていました。すると、生徒からわからないところを教えてほしいと頻繁に電話がかかってくるんです。当時はガラケーなので、音声だけだとわかりにくいし、メールで返信するのも非効率だし、教えたくてもなかなか上手に伝えられない。自分が受験生だったときのことも思い出し、「『今知りたい!』という瞬間にITを使ってタイムリーに教えてもらえれば、もっと効率的に勉強ができたのに」と思っていました。その思いが「manabo」の起点になったのです。

 「manabo」はスマホやタブレットを使い、オンデマンドで個別指導をするサービスです。24時間常にクラウド上にいる現役難関大学生から、聞きたいときにいつでも質問し、答えられる人が答えるというシステムになっています。さらに教科やレベルによって聞きたい先生を変えられます。

 当時は創業など考えてもおらず、大学の勉強の傍ら宇宙飛行士サークルと株式投資サークルに籍を置いていました。特に投資の方では過去実績から投資先を決めるシステムみたいなものを作って成果も出て、けっこういい気になっていた時期もありましたね。そのサークルで、株式会社ウィルゲートを創業した1学年上の吉岡諒さんを紹介されたのをきっかけに、インターンとして働きはじめ、ITに興味を持つようになりました。自分と同じ年齢の吉岡さんが起業しているという事実に「すごい人がいるな」と驚くと同時に、自分の将来にも起業という選択肢があるんだと気付かされました。

 そして、ちょうどその頃にリーマンショックがあり、投資サークルで出ていた利益が泡と消え、改めて何も生み出してないことにがくぜんとしました。もっと社会に貢献して、その価値で利益を出さなければ意味がない。そこで、もっと真剣に勉強しようと思って、大学院に進むことにしました。ただ、ちょうど「東大ノート」という教育に特化したSNSサービスの会社に声をかけられ、企画・開発・営業など一通りの実務責任者として迎えられたこともあり、大学院に入学してすぐ休学届を出し、手伝うことにしました。

 このときのビジネスは、魅力あるコンテンツを提供することで当時オンラインに5%しか投入されていなかった教育業界の広告費の受け皿となろうとしたものでした。しかし、残念ながらユーザーが数万人で頭打ちになり、撤退することになったので、再び大学院に戻ることにしたのです。ただ教育事業で起業できる実感が得られたこともあり、「みなし法人」を作って人を集め、教育関係の受託開発をしながら自社サービスの開発に向けて試行錯誤するようになりました。その中で「manabo」を事業のひとつとして考えるようになりました。

 とはいえ、当時はそれでも起業にかけるというより、いつか起業するための前哨戦みたいな気分でしたね。大学院にも行っていましたし、就職活動もして複数の外資系コンサルティングファームからオファーももらいました。ただ、その直後の2012年4月にフランスのITサービス会社の副社長に会って「manabo」の原型をプレゼンしたところ、気に入ってもらえたようで、提携契約のために急きょ法人化することになったり、友人の主催するビジネスコンテストに出たら入賞してシリコンバレーに行く機会があり、そこでアメリカのスタートアップのリアリティを実感したり、そういった経験から自分の力でやってみたいという気持ちがどんどん強まっていきました。

 でも、まだプロダクトもできておらず、資金も調達できてない。内定を蹴って1人でやるのはものすごく不安でした。でも、結局不安より、やりたい気持ちが勝ったというわけです。

制約の多い日本の教育界で「manabo」が拡大するための選択

――そうして立ち上げた株式会社マナボは、駿台グループの傘下に入られましたね。どのような考えのもと、決断を下されたのでしょうか。

 本当にいろいろなことを考え、さまざまな事情があって……詳しく話せば数時間はくだらないと思います。あえてシンプルに言うなら「マナボが今後スケールするイメージを、最も具体的に描きやすかった」からです。駿台グループの圧倒的な事業規模、講師との相性、生徒の学力レベル、そして特に予想外だったのが、通信教育よりもリアルな塾の方がマナボとの相性が良かったことです。リアルからオンラインに人を誘導するのはすごく難しいのですが、塾では先生が側にいて誘導してくれるので、サービスの稼働率が高かったんですね。

 考えてみれば、もともと私がリアルな予備校で講師をしていて、そのときのニーズから生まれたアイデアですから、本来求められているところに着地したとも言えますね。駿台側でも100周年を迎えて変化を求める機運が高まり、EdTech化を進めていこうとしていた時期に符合したこともあるのでしょう。

――ただ、大きな組織の傘下に入られたことで、自由度が低下するという懸念はありませんでしたか。

 日本の教育業界において、EdTechのスタートアップが事業として成長していくための、ひとつの現実解として妥当な判断だったと思っています。私見ですが、日本の教育系スタートアップがBtoCでスケールするのは「構造上」難しいと感じています。実際、マナボもBtoBで得た資金をBtoCで費やすといった時期がありましたし、BtoCのみでは事業が成り立たないというのは、どこのスタートアップも実感していると思います。

 その理由のひとつは「教育アプリは使う人とお金を払う人が違うこと」にあると思います。ゲームなら使う人を感動させれば、その本人が支払ってくれる。でも教育アプリは使うのは子どもで、払うのは保護者ですよね。例えば、「manabo」にはお金を払ってくれなくても、有名な教育サービスの機能のひとつとして提供すると金額は数倍でも支払ってくれるということがありました。しかも、子どもが使っていなくても保護者が率先してお金を支払うのです。明らかにブランド認知が不可欠で、そのためには莫大な広告費をかけるか、ブランド力のあるところに入るか。もしくは、ものすごく時間をかけるしかないわけです。

 そしてもうひとつ、日本の税法上、学校法人がかなり優遇されていることが大きいでしょうね。教育の補助金もほとんどが学校法人に流れています。そうした中で一私企業が対抗しようと思っても無理な話です。粗利率をギリギリまで下げるしかない。もうそうなると、「そろばん」は無視して「ロマン」にモチベーションを委ねるしかありません。

 本来、私自身の原体験も相まって、「manabo」は教育の機会格差・経済格差をなくすためにBtoCで安価に提供したいと思ってスタートしたサービスです。おそらく他の教育サービスもそうでしょうし、EdTechの本来のコンセプトが「テクノロジーを使って教育のあらゆる格差をなくす」ことにあるはずです。しかし、現実的にはそれが難しくなっていて、打破するためには時間も労力もすさまじくかかるでしょう。そこに人生を費やす覚悟ができるかどうかということなのだと思います。振り返って自分を見つめ直したとき、起業家なのか教育者なのかと言えば前者であり、もっと大きな事業を実現させたいという夢を捨てきれませんでした。


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著者プロフィール

  • 伊藤 真美(イトウ マミ)

    エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

  • 森山 咲(編集部)(モリヤマ サキ)

    2016年10月に翔泳社へ入社し、CodeZine編集部へ配属。2017年4月からはEdTechZineの編集も兼任。前職は組み込み系ソフトウェアエンジニア。

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