女性技術者が少ないのはなぜ? 中学生から始まるジェンダーギャップ
――Waffleは、女子中高生に特化したプログラミング教育事業を展開されています。どのような経緯で設立に至ったのでしょうか。お2人の経歴をそれぞれお聞かせいただけますか。
田中氏(以下敬称略):ITの世界に興味を持ったのは、ポスト・シリコンバレーとも言われる米国のオースティン近郊への留学がきっかけです。そこで「テクノロジー業界で働きたい」と考えるようになり、帰国後はテレビ制作会社に入社したのですが、厳しい徒弟制度に違和感を覚えて1カ月で辞めてしまいました。そこで、まずは技術力を身につけようとプログラミングを学ぶうちに、自分で何かをつくるよりも、プログラミングの可能性を世の中に広く伝えたいと思うようになったんです。でも、当時は経験もなければ支援者もいないため、2017年に特定非営利活動法人みんなのコードへ入職して経験を積みつつ、起業を目指すことにしました。
みんなのコードは公教育でのプログラミング教育を推進するNPOで、行政や企業と連携しながら、学校の先生を中心に支援活動を行っています。私もその活動を通じて、たくさんの子どもたちがプログラミングに取り組む様子を見てきました。その中で、小学生では男女差がほとんどなく、女子も男子と同じようにゲームやパソコンに親しんでいるのに、中学生になると熱心に取り組むのは20対1くらいで男子に偏ることにハッとさせられたんです。「あんなに夢中になっていた女子はどこにいったの?」と。以前から女性技術者の少なさに疑問を感じていましたが、「女性技術者が少ないのは、中高生の進路選択から始まっているのではないか」と考えるようになりました。そして、副業で行っていた活動を2019年11月に法人化し、本格的な活動を始めました。
斎藤氏(以下敬称略):私はもともと大学の農学部で経済学を専攻し、研究の中でデータ分析を行ううちに関心が移り、データサイエンティストとしてIT企業に就職しました。理数系に進学する人が一定数いる私立の中高一貫の女子校出身だったこともあって、就職して改めて日本企業における技術職の女性の少なさに驚くとともに、違和感を抱くようになりました。また、米国の大学院への留学の経験からジェンダーへの意識が高かったこともあり、「これは何とかしなくては!」と考え、会社内に女性のグループを立ち上げエンパワーメントしたり、管理職人数の目標提示活動などを行ったりしていました。
その後、スタートアップに転職しても6人のチームのうち女性は私1人で、女性の技術者を採用したくても、上がってくるレジュメは男性のものばかり。特に日本人の女性からの応募は皆無でした。改めて「採用したくても、女性の技術者がいないんだ!」と愕然としました。ちょうどそのころ、田中とTwitterで出会って意見交換をする仲になり、あるイベントをきっかけに共同創業者として深く関わるようになりました。創業後はしばらく不定期のイベントを開催するなどの活動を行っていましたが、女子中高生への支援を継続的に行う場が必要だと感じて、2020年5月から私もフルタイムで参加することにしたんです。
――あえて、女子中高生にターゲットを絞ったのはなぜですか。
斎藤:最初は、採用したくても女性技術者がいない、それなら大学生に働きかけなければと思ったんです。しかし、理数系分野に進学する女子がそもそも少なく、文部科学省の調査によると工学部の学生は約15%、理工学部でも約28%しかいないんです。そして高校生だと早い人は1年生の段階からすでに文系・理系の選択を意識して勉強しているので、中学生のうちから意識づけしないと女性技術者が増えないことに気づかされました。
田中:そう、私が小学生側からアプローチしていって「あれ? 中高生でいきなり減った!」と感じたのとは逆からの視点ですね。そして2人の見解が一致し、「やっぱり中学生の段階からなんとかしなければ」との結論に至りました。高校生についても、進路を決める重要なタイミングでもあるので対象に含めました。
斎藤:近年はIT技術者が出産後の女性のセカンドキャリアとしても注目されていて、職業訓練的にプログラミングを学ぶ人が増えているものの、若いうちからの積み上げがないとなかなかスキルや年収が上がりにくい実情もあります。キャリアを積むには中高生から素地をつくることが大切であるにもかかわらず、取り組む事業者がほぼ見当たらなかったので、私たちがそこに挑むことにしたのです。