イベントの目的は「新しい教育の選択肢を知ってもらう」「教育イノベーターを増やす」こと
まず、イベントを主催する教育イノベーション協議会代表理事の佐藤昌宏氏は、開幕に先立ち、イベント開催の背景と目的について語った。
佐藤氏は以前からテクノロジーを使うことで「教育のイノベーション」、すなわちもっと自由な教育と学びが提供できると考えていたが、当時はなかなか日本で理解してもらえなかったという。そこで佐藤氏は2012年に単身、米国で開催されている教育系のイベント「SXSW EDU(サウスバイサウスウェスト・イーディーユー)」に乗り込んだ。当時、日本人の参加者はいなかった。
イベントに参加し、同じ想いを持つ多くの教育イノベーターに出会えたことに感銘を受けた佐藤氏は、教育イノベーションの可能性を感じた。今回のイベントに登壇したローゼンバウム氏もその一人だ(後述)。その空気感を日本に持ってくるべく、その後、日本のEdTechスタートアップ企業を毎年引率し、日本の教育を海外に発信したり、逆に海外の教育動向を日本に持ち帰ったりする活動を続けた。
その流れで、日本でもSXSW EDUのような場を提供したいと考え、昨年から年次イベントとして「Edvation x Summit」の開催を始めた。今年は昨年に比べ、参加者・コンテンツ数が倍増しているという。
佐藤氏はイベントの目的として、「テクノロジーを背景に生まれている新しい教育の選択肢を知ってもらうこと(正解かどうかはさておき)」と、「教育イノベーターの創出と、そのネットワーキング」の2つを挙げた。後者に着目するのは、教育を変えられるのは教育イノベーターだからだ。
今必要とされている「教育の本質の見つめ直し」
続けて、昨年に続き会場の一部を提供している千代田区立麹町中学校の工藤勇一校長もコメントを寄せた。麹町中学校会場の司会は生徒が担当し、翌日月曜日の開催では生徒が授業として参加するという。
麹町中学校は、中間/期末試験・宿題・固定担任制の廃止など、現在教育の改革面で耳目を集めている学校の一つだ。先生はチーム医療のような形で一人の生徒にチームで対応し、保護者の面談は先生を逆指名する形で行われる。教科以外のすべての行事も入れ替え、外部企業などとの連携も盛んだ。
目指すのは「社会とシームレスな教育」と語る工藤校長は、成績をつけるために形骸化されたテストなど、現在の日本の教育は目的を見失い疲弊している状態だと指摘する。今の日本の教育界に必要とされるのは、EdTechを導入するなどして改革しようとしている人(教育イノベーター)と学校が同じ目的を持てるかどうか。学校とシンプルに合意形成をする部分が日本には根本的にないという。
本来は子どもが大人になったときのビジネススタイルを学べる場でないといけない。例えば、読み書きが苦手な子どもにとって、小学校一年から六年生までの勉強が本当に必要なのだろうか。カリキュラム一つをとっても数十年前から変わっていないものに対し、本当に必要なものを見つめ直す時代にきている。
「新しいことをやるというより、教育の本質を見つめ直すこと。その上で必要なテクノロジーをどう取り入れていくかが大事だ」と工藤校長は述べた。