いずれは全学的な展開を目指したい──リーダーシップ開発講座の今後
リーダーシップ開発講座が成果につながったポイントとして、土井氏は「ディスカッションの回数を重ねたこと」を挙げる。多様な意見が飛び交うようになり、学生同士が「みんな、いろいろと考えているんだ」と感じられる心理的安全性が生まれるようになったのだという。
そしてもうひとつ、社会人のゲスト講師が失敗からのリカバリも含めて赤裸々に語ったことで、学生にとっての現実的な「お手本」や目標となったのも大きい。「大学と民間の力が交差することで、学生の意識を変え、未来への一歩を踏み出すきっかけになったと感じている」と土井氏は改めて振り返った。
講座の今後としては、効果を測定しながらより適切な参加人数を検討し、名古屋大学のすべての学生がこうした経験を得られる環境整備も視野に入れていく。特に教養教育の中で、どのようにキャリア支援的な要素を導入できるかが鍵となる。
加えて、単発のイベントだけでは学生の成長に寄与することは難しいため、規模を拡大した際も最低でも半期以上の授業として、複数の刺激を継続的かつ体系的に学生へ提供していく。
また、大学院進学などで長期的に学ぶ学生に対しても、どのタイミングで再び「気づき」を促すかという設計は重要だ。そこで、次の3点を今後のための重点課題として捉えているという。
(1)教養教育・基礎教育への組み込み
キャリア支援の取り組みを、教養教育の中にどう組み込むか。学生の初期段階での気づきや自己理解を促す仕掛けが必要。
(2)タイミングと継続性の設計
どの時期に始め、どう継続していくか。特に理系学生は6年間学ぶケースが多く、カリキュラムの設計が難しい。将来への不安を抱える学生に対して、安心して学び、挑戦できる環境づくりが求められる。
(3)理系学生への支援強化
工学部からの相談を受け、理系学生向けの支援の必要性が浮き彫りになった。理系学生は就職自体は容易だが、希望する企業へのインターン参加やキャリア形成において困難を抱えている。特に2週間以上のインターンが必要な場合、授業との両立が難しく、教員側も対応に苦慮している。なぜそこまでして就活するのかといえば、「不安だから」であり、学生が安心して将来を描けるようにすることが、教育の本質であると改めて感じたという。
今後は文理を問わず、学生が安心して挑戦できる教育環境の構築が求められる。キャリア支援と教養教育の融合は、その第一歩となるだろう。
「文部科学省はキャリア教育の重要性を繰り返し発信しているが、現場としては具体的に何をすればよいのかわかりにくい。特に地方大学では、東京の大学と比べて企業との接点が限られており、教育のあり方そのものが問われている。大学は単に学問を教える場ではなく、人間を育てる場であるべきではないか。
企業側からは『ジョブ型雇用』や『専門性の高い人材』が求められる一方で、大学の研究が企業の現場では活かされないケースも少なくない。このギャップを埋めるためには、大学と企業が連携し、実務的かつ人間的な成長を促す教育が必要だと感じる」
土井氏はこのように語り、名古屋大学での改革の起案者として「教育としてのキャリア支援」を再定義し、地方からでも世界に通用する人材育成について挑戦を続けていく意思を表明した。