地方大学が抱える「キャリア教育」の課題
名古屋大学は「勇気ある知識人の育成」を理念に掲げ、多様な学部・研究科を擁して社会課題解決や地域連携に力を注ぐほか、英語学位プログラムや海外拠点を通じてグローバルな人材育成を推進するなど、国際展開にも積極的に取り組んでいる。
就職活動においても、地理的な立地と産業構造の強みを背景に、モノづくり産業、特に自動車業界への就職において実績を持ち、大手自動車メーカーの採用数は他大学の2~3倍にも上る。その一方で、インターンシップの重要性や採用手法の多様化など、近年の就職活動の変化によって「地方大学」としての不利な立場が顕在化している。また、東京・大阪の大学に比べ、近年「人気分野」とされる商社・コンサル・マスコミなどとの接点はあまりなく、採用される学生も相対的に少ないという。
そうした時代の変化に伴う新たな課題を受け、名古屋大学ではこれまで実施してきたキャリア支援をブラッシュアップし、新たな取り組みを開始した。その中心となっているのは、2017年に学生支援本部内に発足した「キャリアサポートセンター」だ。従来の就職情報の収集・伝達を中心とした支援を見直し、キャリア支援の出発点を常に学生側に置きながら、多様な背景を持つ学生一人ひとりに寄り添い、社会との接点を築くために支援している。
キャリアサポートセンター長を務める土井氏は、「これまで、就職活動がうまく進まない学生や心に重荷を抱える学生に向けて、相談対応や支援体制を充実させてきた。しかし近年は、学業成績などで上位の学生も就職活動で苦労しているため、その支援も強化することにした」と語る。

いわば、就職活動にハードルがある層を押し上げ、トップ層をさらに高みへと引き上げるという「両面での支援」が、キャリアサポートセンターの新たなミッションというわけだ。その支援策のひとつとして位置付けているのが、直接企業の担当者と触れ合える、対面型の企業連携イベントだ。学生と企業の接点を増やすことにより、地域的な不利を少しでも解消し、学生のキャリア形成を支援しようというものである。これまでは個別相談以外に、大小合わせて年間150回以上の支援イベントを実施してきた。今後はこの中に直接企業と接触できる、例えば企業から課題をもらうワークショップなどのイベントを増やしていく予定だ。
地方大学でありながら、イベントは対面にこだわっている。土井氏は「授業でも教員が学生の表情や反応を見ながらコミュニケーションすることで、授業自体のわかりやすさや面白さに影響が出る。就職活動でも、画面越しでは得られない緊張感や人間的なつながりが、次のステップへの意欲や行動を喚起し、信頼関係を醸成する」と語る。
そして、企業と学生が直接触れ合う機会は、特に年次の若い学生にとって、就職活動への関心が芽生えるきっかけになるといい、その意味でも、対面の場は欠かせないという。