「リーダーシップ」の定義を変える、教育としてキャリアを支援する講座
さらに、名古屋大学では以前から経済学部の学生を対象に、民間企業と連携し開講していた「リーダーシップ開発講座」の内容を見直し、OB/OG訪問ネットワークサービス「ビズリーチ・キャンパス」の協力のもと、2024年度にリニューアル開講した。
リニューアルの理由について、土井氏は「15年ほど前から実施してきた従来の講座がコロナ禍の影響で中断することになった。その際、首都圏との情報格差や、学生支援の質の向上に対する課題が顕在化し、枠組み自体が時代に合わなくなりつつあると感じた。同じタイミングでビズリーチ・キャンパスから提案があり、『これまでの講座から、さらに二段三段上の新しい取り組みができるのではないか』と考えた」と振り返る。
講座を再構築する際、まず議論となったのは「リーダーシップ」の意味づけだという。以前は協力企業がチームに入り、学生が疑似的に上司との関係を体験する形式で進めていたが、学生の覚悟や自覚が伴わなければ、互いにうまくコミュニケーションできないなどの課題も見えていた。そこで、リーダーシップ教育の根本に立ち返り、学生自身が『自分を理解し、周囲と協働するとはどういうことか』を考えるプロセスが必要という結論に至った。
この「リーダーシップ」は、カリスマ性や権限がある人が上から指示を出すというものではなく、自ら率先して動く「率先垂範」、メンバー同士が協力して働ける環境を支える「相互支援」、チーム全員が同じ課題意識を持ち、共に取り組むようにする「目標設定」の3つの要素の獲得が重要だとしている。この考え方は学生にとっては新鮮であり、時に戸惑いを生むことも多くあるという。一方で、「部活でキャプテンをやっていたから、リーダーシップがあるはず」と考える学生でも、実際のグループワークでは「異なる力」が求められることに気づき、成長につながっている。
また、対面のグループディスカッションなどでは、首都圏の学生のほうが経験も豊富で、地方大学の学生が苦戦する場面も多くある。だからこそ、講義形式だけでなくワークや発言の機会を積極的に設けている。
「情報が多様化し、AIやSNSによって『自分に向いているもの』しか見えなくなる時代だからこそ、学生には一度その情報を忘れて、自分自身と向き合う時間が大切。テクニックを伝えて就職活動を支援するのではなく『教育としてのキャリア支援』を通じて、根幹から強い学生を育てることが私たちの目指すべき方向性だと考えている」(土井氏)