「つくって終わり」ではないデザインシステム
──デザインシステムを運用してみて、実際にどのような効果を感じていらっしゃいますか。
尾崎:デザインシステムの方向性を具現化したScience TokyoのWebサイトでは、その効果を実感していただけると思います。一般的な大学のサイトとは異なり、「ニュースメディア型」としてトップページでニュースやメディア情報を中心に、大学の「今」を伝える構成としています。大学の理念や研究・教育の現況を伝えるだけでなく、閲覧者にとって必要な情報にアクセスしやすいように、複数の専用サイトが連動する設計となっているのが特徴です。
例えば、受験生が「今の大学の姿」を直感的に理解できるようにした点も工夫のひとつです。また、学内の教職員がニュースを更新しやすい環境としたことで、日々の情報発信が自然と活性化されているのを感じています。大学の魅力や活動がタイムリーに伝わることで、利用者との距離感が縮まり、コミュニケーションの接点としての役割も果たすものと考えています。

足立:この裏側には「メディアプラットフォーム」と呼ばれる仕組みがあり、学内のニュースやイベント情報などを集約し、1つの投稿ソースを通じて複数サイトで情報を再利用できるように設計されています。また、ニュースのサムネイル画像やタイトルの表記方法も工夫し、これまでバラバラのスタイルで作成されていたものを、視認性やアクセシビリティを意識したルールで統一することにより、Science Tokyoらしいブランドの一貫性を表現しています。
このように、メディア中心の設計から細部の表現まで、情報集約とブランド価値の訴求に貢献する仕組みとして整備されている点が、Science TokyoのWebサイトの大きな特徴であり、デザインシステムの効果といえるでしょう。
星野:Webサイトの流入の状況を含め、想定以上に順調に滑り出した実感があります。足立さんが紹介してくださったような裏側の技術構成を丁寧に作り込んだことや、ビジュアル・タイトル・ライティングなどもGoogleをはじめとする外部評価に耐えうる一定の品質とアクセシビリティを確保できていることが、功を奏したのだと思います。
──デザインシステムについて、今後の展望をお聞かせください。
星野:現在、私たちはデザインシステムを「公開したばかり」の段階です。これから先、長く時間をかけて育てていく必要のあるものだと認識しており、そのためにも「つくって終わりにしない」という姿勢が非常に重要だと思っています。現時点で完成形に到達したわけではなく、Science Tokyoらしさは、まだ生まれたばかりです。これからも社会のニーズに合わせて、よりわかりやすく、伝わりやすく進化・変化させていくことが、私たちが取り組むべき方向性だと思っています。
そのための鍵はやはり、「社会とともに価値を創っていく」という姿勢にあると考えています。統合発表時の基本合意書にも「これまでどの大学もなしえなかった新しい大学のあり方を創出していく」というコンセプトが示されています。私たち広報担当者としても、従来の大学広報の形に囚われるのではなく、社会のさまざまな声にしっかり耳を傾けながら、新しい大学のあり方を考える姿勢が何より重要だと考えています。
もちろん、日々の運用やコンテンツの積み重ねも重要です。そこに大学の「魂」が宿ると考え、一つひとつのコンテンツを丁寧に発信し、数字的な効果やSNS上の反響など、あらゆるフィードバックを受け止めながら軌道修正を繰り返すという、当たり前のことをどれだけ愚直に実践できるかが試される領域だと思っています。ブランドは仕組みで終わるものではなく、運用され続けることによって成り立つものです。これからも、日々の積み上げを大切に育てていきたいと考えています。
尾崎:デザインシステムを、ここからどう「使われ続ける仕組み」に育てていくかが、私たちの本質的なミッションだと思っています。現場で活用され、業務に自然に組み込まれ、実際に使ってくださる方々から「もっとこうしたい」「ここにこういう情報があると助かる」といった声を吸い上げることも含めて、私たち自身がアップデートを重ねながら育て続ける。そうした姿勢を大切にしながら、使いやすく、共に育てる、そんなデザインシステムであり続けていきたいと思っています。
足立:Science Tokyoデザインシステムは、大学ブランドを伝える取り組みとして始まったばかりです。中でもWebサイト構築の構想では「セグメント」という、大学内の各組織に対してブランド適用の強度や表現を適切に調整するための設計方針を採り入れています。現段階では中心的な部門から展開し始めていますが、大学内にはまだ多数の組織があり、それぞれが少しずつブランドを活用できるように支援することが、今後の大きなチャレンジだと捉えています。
なお、今回のデザインシステムは、一般的なプロダクト中心型の構成とは異なり、紙やポスターからWebサイトまで、情報発信の基盤として広範囲な活用を前提とした設計が特徴です。取材を通して関心を持っていただける機会も増えつつあり、他大学・高校での活用や応用可能性についても新しい視点を提示できるのではと期待しています。
こうしたブランド表現の枠組みが、今後さらに発展し、多様な組織が自然に使いこなせるものへと成長していくことを願っています。