なじみのない「デザインシステム」という概念をいかに浸透させていくか
──デザインシステムの考え方は日本の大学にはなかったものであり、「仕事がしやすくなる仕組み」といった説明だけでは利便性を実感しづらい面もあったかと思います。どのように現場へ浸透させていったのですか。
尾崎:そこはもう地道に、初期段階からデザインシステムが形になる過程に応じて、毎月1~2回の頻度で学内説明会を継続的に実施してきました。統合前にロゴマークが完成したタイミングでは、全教職員に向けて通知し、その後デザインシステムの初期の雛形が整備されるタイミングでも改めて周知を図るなど、ステップ・バイ・ステップで学内への浸透を促進してきました。
説明会だけでなく、いつでも問い合わせできる窓口を整備し、担当者が責任を持って対応する体制を構築しています。これにより、現場からのフィードバックや実際の運用における疑問をタイムリーに受け止めることができ、次のアップデートのヒントや改善にもつながっています。説明の場を通じて知見が蓄積され、運用設計に反映するサイクルが生まれたことで、デザインシステムがより現場に根差して成長できると考えています。
現在はさらに、デザインシステム運用と並行して、大学全体でブランドを推進する体制づくりにも取り組んでいます。これは、ブランディングを進める構想の一環として位置づけられており、学部や事務系の組織、研究機関など、大学内のさまざまな部門から代表者を選出し、情報共有や相談の場を設けることで、横断的な連携を図っています。そして各部門が自分たちの活動にどう落とし込んでいくかを考える――そんな動きが少しずつ始まっている段階です。この体制は、2025年度に入ってようやく本格稼働したばかりですが、今後さらに機能させていくことで、大学としての統一的なブランド発信や方針浸透を支える仕組みとして整備したいと考えています。
星野:大学のWebサイトについては2024年10月1日に正式にオープンし、多くの関係者が立ち上げから運用まで深く関与し、日々の業務に欠かせない「業務ツール」として活用されています。一方で、それぞれの担当者が「Webページを更新すること」と「大学のブランド価値を伝えること」がどうつながっているのかについては、現場で十分に理解されない面もあると感じています。
だからこそ、広報課としては「日々の業務と、大学と社会とのコミュニケーションは1本の軸で貫かれている」という意識を学内で共有していかなければならないと考えています。Webページの更新作業とブランドのあり方は、学生・受験生をはじめとした利用者との接点を構成するという意味で地続きです。それを一貫して伝えていくことが私たちの使命です。
私はWeb担当者として、更新方法のレクチャーや運用体制の整備も担っていますが、同時にブランド推進の視点も常に意識しながら、現場の担当者と一貫性のあるコミュニケーションが取れるよう努めています。日々の運用の積み重ねが、大学ブランドの定着につながることを示しつつ、今後も周知と支援を続けていきたいですね。
──デザインシステムが導入・公開されてからは、どのような反響がありましたか。
尾崎:導入当初は使い方への不安や戸惑いが多く、学内からの問い合わせも数多く寄せられていました。半年以上が経過した現在は、徐々に学内でも使いこなす方が増えてきたと感じています。日々の業務の中で自然と活用され、イベントやポスターなどの成果物にも「Science Tokyoらしさ」が表現されたものが増えてきている印象です。
星野:一方で、いまだ「デザインシステム」という言葉が視覚表現に限定された意味で捉えられることも多く、「そんな情報がそこにあったのか」と存在を知らないままの方もいます。ただそれも想定内で、丁寧に説明することは今後ますます重要になると感じています。学内にはさまざまな立場の方がいるからこそ、それぞれの業務に沿った伝え方を意識していきます。
尾崎:その意味でも、デザインシステムをWebで展開したことには、大きな意義がありましたね。デザインシステムのWebページは、どのような情報がどこにあるのかが直感的にわかるような構成とし、情報の配置や表現方法についても熟考を重ねてきました。その結果、問い合わせ対応もWebページを案内することで格段にスムーズになり、現場の担当者も内容を理解しやすくなったと思います。「見せれば伝わる、開けばわかる」という状態としたことで、運用面の負担軽減にもつながりました。
星野:デザインシステムの構築にあたっては、私たちチームの間で「Single Source of Truth(信頼できる唯一の情報源)」という標語を意識し、広報活動における「よりどころ」となる存在を目指して整備を進めてきました。
「あれこれ探さなくても、ここを見れば最新情報がわかる」という状態を実現したことで、利用者にとっても安心感や信頼感を持っていただける構成になっているのではと感じています。
足立:加えて、今回のプロジェクトでは「育てるデザインシステム」という意識のもとで設計を進めてきました。新しい大学として展開していく中で、ブランドの実装が進み、「新たに必要な要素」や「伝えるべき価値」も自然と増えていくはずです。それらをデザインシステムに都度集約し、更新できる環境が整っていることは、継続的な利便性を高めます。新しい機能や情報が追加される度に、「より使いやすくなった」「わかりやすくなった」といった反響が学内外から自然に生まれることを期待しています。