デザインシステムが知の循環を促す新しいモデルに
──そうしたコンセプトを受けて、支援で入られたコンセント社からはどのようなアイデアや企画を提示されたのでしょうか。
足立:デザインシステムをさまざまなステークホルダーと共有し、育んでいくという構想を受け、初期の提案段階から「一般公開すべき」と提案しました。「大学のブランドを伝えるためのデザインシステム」を一般公開する事例は非常に稀であり、今回の試みは社会的にも大きな意味を持つといえるでしょう。
「大学のブランドを広く正確に伝える」という目的はもちろんですが、Science Tokyoが掲げる理念に照らして、大学が蓄積する知や知見を積極的に開いていく姿勢を示す、非常に象徴的な取り組みだと思います。
ビジュアル表現やブランド戦略といった面に加えて、技術的な知見や実装ノウハウなども積極的に公開することで、その社会的価値がいっそう高まるのではないでしょうか。知の循環を促す新しいモデルとして、今後も意義深い発展につなげていきたいと考えています。
──デザインシステムを利用する際のルールにはどのようなものがあるのでしょうか。
尾崎:ブランド構築では理念を土台として、シンボルマークやロゴマークなどの視覚的な要素を整備しており、これらの使用に際しては、ブランド価値の一貫性を保つために一定のルールを設け、ガイドラインを明示しています。ですが、私たちはこのデザインシステムを「ルールでがんじがらめにする」ことを望んでいるわけではありません。むしろ「これを使うと便利になる」「仕事がスムーズになる」「より効果的に伝えられる」といった、利用者にとっての実用性や伝達力の向上こそが大切だと考えています。
そのため、どこまで厳格に運用すべきか、どこに自由度を持たせるべきかといった点には常に配慮し、グラデーションを持たせるような設計にしています。使う人にとって「堅苦しくないが、信頼感のある」運用環境を目指しながら、ブランドの価値を守りつつ社会とのコミュニケーションを支援していくことが、私たちのデザインシステムのあり方です。

星野:できるだけ「ルール」という言葉を使わない姿勢は大切にしています。指針として「ここは守ってほしい」といった点は明確に示しつつ、同時に利用の自由度も確保したニュアンスを随所に残すように意識しました。例えば、ロゴなどの象徴的な要素については厳格な運用を求め、それ以外のビジュアル表現やライティングは指針を提示し、使い手が柔軟に活用できる余地を持たせています。ブランドの一貫性を守りながらも、ユーザー自身が自らの用途や目的に合わせて自然に使いこなせる。そうしたバランスの取れた設計を目指しているのが、このデザインシステムの特徴といえるでしょう。
尾崎:私たちは「どのような形であれば、皆さんに自然に受け止めてもらえるのか」と、非常に悩みながら検討を重ねてきました。例えば「こうした使い方があります」「このようなポイントを押さえると便利です」といった、提案型の表現を意識して使うようにしました。これは、単にルールを伝えるのではなく、それを見た方が実際に「使ってみたい」「参考にできそう」と思ってもらえるようにしたかったからです。
星野:言葉としては「ガイドライン」という表現をよく使っています。便利な方向性を示すけれど、強制はしないスタンスです。ガイドラインを示すことは、関係者の多い組織ではより有効だと感じています。大学という場は、さまざまな部署がそれぞれ異なるステークホルダーと関わり、社会との接点も非常に広範囲にわたります。そのため、情報発信に慣れていない部署や担当者にとっては、外部向けのライティングやビジュアル制作に戸惑うケースも少なくありません。「外向けの文章は書けない」「ビジュアルの企画やデザインに不安がある」と感じる方にとっては、どこから手をつけたらいいのか迷うこともあるようです。
そうした方々にとって、ガイドラインとしてのデザインシステムは非常に有用な補助ツールとなり得ます。ルールというよりも「こうすれば一定のクオリティが保てます」「Science Tokyoらしい表現につながります」といったように、支援として機能するものであり、業務の負担軽減やアウトプットの品質向上に寄与することを期待しています。より多くの部署が安心してブランド発信を担えるよう、デザインシステムが「実践的なガイド」として活用されていくことを願っています。