多様な関係者を巻き込みながらデザインシステムのあり方を検討
──デザインシステムの検討にあたり、苦労した点があればお聞かせいただけますか。
尾崎:やはり新大学のブランディングを「ゼロから」取り組んだことでしょうか。根本となる理念策定では「科学の進歩」と「人々の幸せ」という言葉をどう捉え、大学のミッションへいかに結びつけていくのかという点から模索が始まりました。そして、多くの関係者に集まってもらい、何度も議論を重ねました。
「新しい大学では、どこに価値があるのか」「私たちはこれまで何を大切にしてきたのか」。そのような問いを参加者それぞれが考え、ワークショップなどを通じて、理念やロゴマークの方向性が少しずつ形になっていきました。このプロセスそのものが大きな節目であり、第一の山場だったと思います。
第二の山場は完成した理念やロゴマークを「どうすれば多くの人に正しく・自然に使ってもらえるか」を考え、デザインシステムの構成や運用方針を練り上げていったことです。すべてを一から築き上げる過程には困難も多くありましたが、それゆえにプロジェクトの意義がいっそう強く感じられます。
山﨑:デザインシステムの制作の現場においても「ゼロから」は大変でした。今回のプロジェクトは、Science Tokyoの設立前段階から始まったこともあり、対象が広範・多岐にわたり、表に出ている成果物だけでなく、学内各所での承認プロセスや部署間調整、フィッティングなど、裏側でも膨大な検討を重ねました。さらに組織が流動的な中で、継続的に運用・成長できるデザインシステムを設計することが求められたので、「現場で育てられるシステム」として「誰でも更新できる仕組み」を設計段階から組み込み、使い勝手や成長可能性の確保を意識しました。
具体的には、学内の関係者が継続的に関わりやすい設計とし、テキストファイルを更新すればデザインシステムにも自動的に反映されるような仕組みづくりや、柔軟かつ現実的な運用体制を整えることに注力しました。
足立:ガイドラインやデザインシステムの構築では、外部ベンダーに依存すると運用・修正が困難になるケースも見受けられます。それを回避するために、設計段階から多くの立場の方々を巻き込み、使う人が負担なく運用できる環境を意識してきたことは、今回のプロジェクトを支える重要な要素だったと感じています。
同じように新大学のWebサイトについても、初期段階では当社がほぼ作成したのですが、その時から多くの関係者が手を入れられるような設計・仕様としたことで、現在はほぼ学内で運営されており、スピード感をもって更新していらっしゃいます。
尾崎:デザインシステムのバージョン管理についても、かなり深く議論を重ねました。軽微な変更から大規模なアップデートに至るまで、「このレベルの修正であれば、こういった方法で対応していこう」といった考え方を体系的に内包した構成となっています。
星野:私は、丁寧に議論されて磨き上げられた大学の理念を、現実的な実務に落とし込む過程での苦労が印象に残っています。理念を掲げたところで、それが実際に一つひとつのWebページにどのように反映されるのか、あるいは私たちの一つひとつの業務にどのような変化をもたらすのか。そうした具体への接続は非常に抽象的で困難を極めます。そこで、本学のデザインシステムでは、理念から現場業務へと段階的に「階段を下りるように」接続できる構成を意識しました。その階層設計はデザインシステムの運用にも深く関与しています。
例えば、現在デザインシステム「1.0.0」が公開されていますが、これにはソフトウェアのバージョン管理手法のひとつである「セマンティック・バージョニング」を導入しています。ここからメジャーバージョンを更新する際は役員会の承認を必要とし、文言の細かな修正など軽微な変更は現場判断で更新できるルールとしました。このように大学の方針と現場の運用が無理なく接続されるよう、階層構造と変更管理の設計で細やかな工夫を重ねたこと。そこが私にとっては一番苦労した部分といえます。