[※]出典:文部科学省「令和5年度公立学校教職員の人事行政状況調査について」
株式会社クジラボ 代表取締役 森實泰司(もりざね だいじ)氏
株式会社リクルートで採用コンサルタント、ITベンチャーで人事責任者経験後、人事コンサルタントとして独立。現在も人事顧問に従事するなど、教員をはじめ数多くの転職者として関わる。2019年に学校法人の事業を承継し私学経営を行うかたわら、2021年に教員のキャリア支援事業を行う株式会社クジラボを創業。ミッションは教育のオープン化。
「この先続けられるのだろうか」教員の精神疾患による休職者が過去最多の現状
──教員の精神疾患による休職者が過去最多に達したとのことですが、実際にメンタルヘルス関連の相談は増えているのでしょうか。
はい。クジラボが創業してから3年半が経ちますが、メンタルヘルス関連の相談は増えている実感があります。休職者の方からは「現在休職をしているけれども、復帰できるのだろうか」「戻って続けられるか分からない」という声が寄せられています。また、休職まで至っていないものの、心身ともにストレスが積み重なり、コンディションを崩している方も増えている印象です。「この先続けられるのだろうか」と、未来に不安を抱えて相談に来られる方が多くいらっしゃいます。
──具体的にはどのような相談がありますか?
文部科学省の調査でも明らかになった通り、児童・生徒対応、保護者からのクレーム対応、職場の人間関係など、教員が抱えるストレス要因は多岐にわたります。
特に、クジラボで多く寄せられるのは、公立学校での異動に関連する相談です。
異動先で新しい環境に適応しきれないうちに、対応が難しい子どもや保護者がいる学級を担任したり、主任や主幹といった役職を任されたり、また負担の大きい校務分掌を担当したりするケースが多くあります。
異動先ですぐに難しいクラスや役職を任されること自体は、ある程度の経験を積んだベテランであれば自然なことですし、それ自体は悪いことではありません。ただ、問題となるのは、新しい学校で人間関係が築けていない状況や、相談しやすい雰囲気がない場合です。こうした環境下では、教員が1人で抱え込みやすく、精神的な負担が大きくなる傾向があります。
「校内の人間関係がまだ築けていない状況で、子どもや保護者の対応について周りに相談ができず、1人で抱え込んでしまっていた」と、ある相談者の方は話してくれました。
──メンタルヘルス関連の相談が増えている背景として何が考えられるでしょうか?
まず、子どもや家庭の状況が多様化していることが挙げられます。発達障害や学習障害といった特性を抱える子ども、複雑な家庭環境で育つ子どもなど、一人ひとりの背景や支援のニーズが異なります。また、保護者からの学校への期待や要望も多様化しています。教員はそれぞれの子どもや家庭の状況に寄り添った対応を求められていますが、限られた時間とリソースの中ですべてに対応することに難しさを感じる先生も多くいらっしゃいます。
さらに最近では、かつてのような「先生の言うことを聞く」「学校からの指示は守るべきもの」といった認識が薄れつつあり、保護者の要望やクレームへの対応が増加している現状もあります。例えば、放課後補習や部活動の運営について、「やってほしい」「いや、習い事があるから早く帰らせてほしい」などと、対立した意見が保護者の間で出ることも少なくありません。こうした板挟みの状況に加え、時には理不尽とも思えるクレームが寄せられることもあります。こうした個々の対応が、教員にとって負担となっているのです。