民間のカスハラ対応に学ぶ、教員の人権を守る仕組みとは
──深刻な状況ですね。このような状況を打破し、教員をストレスから守るために何ができるのでしょうか?
まず「対応できること」と「対応できないこと」を明確に分けて考えることが重要です。これは、いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)への対応に通じる部分があります。かつての「お客様は神様」という考え方が「カスハラ」につながったように、学校現場でも「先生なんだから」という過剰な期待や要望を当たり前とする社会的風潮が負担を増大させているのが現状です。
そのため、「できないことはできない」と学校全体で明確に示すことが大切です。例えば、2024年6月にJALとANAが発表したカスタマーハラスメント(カスハラ)対応の共同声明のように、管理職が学校としての一貫した方針を打ち出し、保護者や地域社会に発信することが必要なのではないでしょうか。教育委員会から大きな方針を提示することも有効でしょう。教員の人権を侵害する要望にはしっかりと線を引き、「子どもたちのため」という名目で無理な負担を押し付けない仕組みを作ることが、持続可能な学校を作るためには不可欠です。
──具体的にはどのような取り組みが考えられるでしょうか?
一つに、クレーム対応を学校の外部で請け負うことで、教員が直接対応する負担を軽減する方法が考えられます。例えば、奈良県天理市では、保護者からの要望や苦情を受け付ける専用窓口「ほっとステーション」を設けています。この窓口には、元校長や臨床心理士などの専門家が常駐しており、電話やメールの対応に加え、面談を通じて保護者の声に応じています。この取り組みの結果、中学校ではすべての学校で、小学校では9校のうち7校で前年と比較して残業時間が減少したという成果が得られたそうです。
また、今後はAIを活用した対応も考えられるでしょう。民間ではすでに、クレーム内容をAIが要約し、必要な情報を担当者が把握しやすくする仕組みが導入されている会社もあります。これを学校現場に応用すれば、教員が直接感情的なやり取りを経験せずに済みます。
このように、教員個人の力量に頼りすぎず、学校全体として対応できるシステムを構築することが大切です。「先生」という個人を主語にするのではなく、「学校」という組織を主語にした運営体制を作ることで、教員一人ひとりの負担を軽減し、現場の持続可能性を高めることができるのではないでしょうか。