はじめに
急速に普及し、世界を大きく変えたICT。さらなる進化は必至とされる次世代において「教育の情報化」の必要性が声高に叫ばれている。その牽引役である総務省は、昨年12月に教育を中心とする「地域IoT実装推進ロードマップ」を策定。さらに機材や教育ノウハウなどでクラウドプラットフォーム化を推進し、2020年度には100%の子どもたちが利用できる環境の実現を目標として盛り込んでいる。
開会挨拶に立った総務省制作総括官の今林顯一氏は、事業の目的として「全ての学ぶ人に対して、効果のある学びを提供する。児童や親、地域も含めたあらゆる参加者のもとで学びの新しい姿をつくってほしい」と語り、平成29年度には、事例や体験のWeb上での共有、障害を持つ児童の学習に関する協議・策定、有識者会議の設置など、これまで以上に教育の情報化に関する施策が展開されることについて触れた。
「先導的教育システム実証事業」の総括とこれからの取り組み
最初に、総務省情報流通行政局 情報通信利用促進課長の御厩祐司氏が登壇。先導的教育システム実証事業の総括と、今後の展望について発表を行った。
「教育クラウドプラットフォーム」はクラウドを用いて多種多様なコンテンツを利用できるもので、文部科学省と連携して検証を行い、標準仕様を取りまとめて広く普及させることが目標だ。また、その活用によって学校・家庭・地域の連携、地域活性化・まちおこし、最先端学習スタイルの実現に役立てようとしている。
「先導的教育システム実証事業」は、実証を通じた「クラウドのメリット把握」と「標準仕様等の策定」が目的であり、実証校・検証協力校など89校にプログラミング教育実証校23校を加えた112校・13694ユーザーが参加した。なお、教育クラウドプラットフォームには14社7類型21コンテンツが搭載されており、学習支援システムの「schoolTakt」、ドリル学習の「eライブラリ」、シミュレーション型「ポケタッチ」の順でアクセス数が多かった。
先導的教育システム実証事業はNTTコミュニケーションズ株式会社が取りまとめ役となり、教育クラウドプラットフォームの設計開発や教育ICTガイドブックの作成、コンテンツや実証地域・学校の実証支援などには多くの企業や団体が関わっている。さらに有識者による評価委員会に加え、総務省の中にも有識者が助言を行うプロジェクトマネジメントオフィスが設置されるなど、多方面からの支援を受けて実施されている。
まず、先導的教育システム実証事業の目的の一つである「クラウドのメリット」について、次の4点(4S)に関する実証結果が報告された。
[1]安全安心に使えるか(Secure)
プラットフォームへの総アクセス数が約36万件なのに対し、情報漏洩などのセキュリティインシデントは0件だった。自前サーバーよりもセキュリティレベルは向上すると思われる。
[2]切れ目なく使えるか(Seamless)
場面(一斉授業・個別授業・協働授業など)および場所(教室・図書館・自宅など)での実証を行った。他事業者とのプラットフォーム連携によるシングルサインオンが可能であることや、イスタンブル日本人学校生徒による自宅学習・一時帰国中のクラウド利用が実証されたことについて紹介された。
[3]迅速・柔軟に使えるか(Scalable)
フルクラウドモデル校や実証校での実証に加え、週および時間によるアクセス数のバラツキから、「他事業者との環境をシェアし、共有ピークを分散させることでコストをより抑えられるのでは」という知見が得られた。
[4]低コストで使えるか(Savable)
1人あたりコストが6割削減され、その反対に利用回数は3.3倍になるなど、既存のフューチャースクール推進事業に比べてコストパフォーマンスは8.3倍にもなった。また、学校現場の習熟やマニュアルの充実などによってヘルプデスクへの問い合わせは3年間で半減。1校あたりでは1/4にも減ったことから、運用負荷も削減できることが期待される。
そして二つ目の「標準仕様等の策定」については、標準技術仕様や参考調達仕様、クラウド環境構築ガイドブックなど7種についての実証を行った。ここでの知見をもとに、最終成果物を取りまとめたものが総務省のホームページで公開される予定だ。さらに今回の積み残しとして、高度で円滑なデータ利活用の実証が挙げられ、今後はエビデンスベースでの教育を可能にするデータ活用の実証に取り組むという。また、地域によっては十分なネットワークが提供されていない課題も残っており、インフラ整備の必要性が語られた。