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EdTechZineオンラインセミナーは、ICTで変わりつつある教育のさまざまな課題や動向にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「EdTechZine(エドテックジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々の教育実践のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

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イベントレポート(ICT活用)

「学習者主体の学び」を実現するため、管理職は何をすべきか? 校長経験者3名が語る

「未来を創る教育セミナー 2024 in仙台」レポート(1)

主体的な学習者になるために必要な「子どもの視点」と「教員・管理職の役割」(2)

こんな授業はイヤだ──生徒の声から授業が変わった

 菅原氏は子どもたちの目線として、山形市立金井中学校の生徒会が取りまとめた「こんな授業はイヤだ」の内容を紹介。具体的には「先生がずっと話している」「わかっている人を中心に指名して授業を進める(わかっていない人が置いていかれる)」といった授業が挙げられており、理由も説明されている。

 そのような授業に対しては、「まず自分たちで考え、不明点が出てきたら先生やクラスメートに聞くといった『自分たちのペースで学び、理解し合える学び』を増やしてほしい」と要望している。これは「誰かに教えることで理解が深まる」という生徒自身の経験によるものだ。

 こうした生徒の声を受けて、同校では今年4月、GIGA端末やクラウドも活用しつつ、生徒主体の学びをどう実現するかを学校全体で議論した。そして、教員一人ひとりが課題解決策を積み上げていった結果、9月にはどの教員も生徒主体の授業を意識するようになった。

 生徒主体の授業を実現するためには、クラウドを活用した協働作業もポイントとなるが、その点についても手応えを感じているといい、生徒自身のペースで課題解決に取り組む授業が実現している。菅原氏は「これこそが、取り組みを進める中で全体を俯瞰する管理職の関与が重要であった事例」とした。

 さらに菅原氏は、岩沼市立岩沼南小学校の事例も紹介。同校では子どもが主体的に学ぶ授業の3つの要件として、

  1. 子どもに学習を行う明確な動機があること
  2. さまざまな学習法略を理解し、支えること
  3. 学びをメタ認知できること

と規定し、教科横断でこれを意識している。この方針はまさに菅原氏自身が学校長時代に管理職として大切にしていたことと同じだという。

 また、先に「行政の支援が大切」と話した佐々木氏の指摘に関連する内容として、大衡村立大衡小学校・大衡中学校の事例が紹介された。両校では、教職員研修会の中で「『先生が主導する授業』から、もっと『児童生徒に委ねる』授業にしていきたい」という声が教職員から上がっていた。

 その声を受けて、校長が「そうだね、ならばチャレンジした授業をやってみようか」とすぐに後押しをし、教育委員会の指導主事もバックアップした。これにより、教員同士がそれぞれチャレンジした内容を共有しつつ、子どもたちと会話をしながら「一緒に授業のコンセプトを作っていく」といった動きが生まれたという。菅原氏は「校長の役割、行政の役割は、大切にしているビジョンをメッセージとしてしっかり発信し、先生たちを支えることではないか」とまとめた。

「成功事例の共有」が取り組みを後押し

 多勢氏は、学習者主体の学びのビジョンとして、学習者自身が設定した学びの目標・ゴールに対し、学習者が「自覚と意思」を持って進められるように、

  1. 納得がいくまでやれる環境
  2. お気に入りの方法で進められる環境
  3. 好きな場所で実施できる環境

の3つを整備する方向性を示した。

 だが一方で、教職員は常に「全力疾走状態」に近く、「無理は禁物」であることは間違いない。そこで多勢氏は校長として、学習者主体の学びの実現に向けたビジョンを共有するため、次のような取り組みを行っている。

  1. 教職員が日々困っていることを聞き取る
  2. そのうえで、学習者主体の授業の実現に向けた改善の必要性とその有効性を職員会議などで共有する
  3. 共有事項について個々に思うところのある教員に対しては放課後などのすきま時間で個別に相談に応じる
  4. うまくいった事例は週単位で行う打ち合わせの中で「成功事例」として共有する

 「これらの繰り返しがポイントになる」と多勢氏は述べ、特に4番目の「成功事例の共有」は「小さな一歩を後押しすることを大事にする」観点から重要だとした。特に、子どもが「どう変わったか」という点については、多勢氏自身が授業を見学して子どもたちに感想を聞いて回り、授業の様子が伝わる写真と一緒にほかの教員にも共有している。

 また、子どもたち目線で困っている「共通的な課題」を見つけ、その解決策をできるところから着手することで「納得感を共有する」手法を教職員が実践している事例も紹介。一例として、新人や若手の教員では支援が難しい、もしくは代替教員が来るなどして学習の方法が変わり、子どもたちが混乱しやすい「漢字ドリルの実施方法」を挙げた。

 多勢氏の学校では教員同士が協議した結果、漢字ドリルの学習で教員から児童に主導権を渡しており、児童1人が1つの漢字をそれぞれ担当し、児童同士が教え合う手法を全クラス共通で取り入れている。この手法により、教員によってバラバラだった漢字学習の取り組み方が共通化され、児童主体の学習を導入するきっかけとなった。

 そのほか、ケガや妊娠などにより、体育の授業中に教員が「お手本」を示すのが難しくなった際の解決策を児童に考えてもらった例もあるという。児童はお互いに助け合ったり、得意な子の動作をお手本として撮影して共有したり、きょうだいから聞いた練習方法を試したりと、「自由進度学習」のような様子が見られた。こうした場面を目の当たりにした教員は「子どもたちで全部できることがわかった。おかげでじっくり様子を観察できる」と、効果を実感したそうだ。

次のページ
学習者主体の学びを実現したいが……さまざまな悩み

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この記事の著者

野本 竜哉(EduOps研究所 代表)(ノモト タツヤ)

 情報工学修士。高校生時代に自身が1人1台の端末環境で学んだ経験を世に広げるべく、通信企業の学校SE、教育企業の管理職、教育系システム会社の執行役員を歴任し、一貫して教育×ICT領域の事業に従事。2024年8月に独立し「技術をやさしく伝える」をモットーとした教育現場の取材・執筆・情報発信活動の傍ら、...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


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