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EdTechビジョナリーインタビュー

子どもの学習意欲を引き出す思考センス育成教材「Think!Think!」~開発者・川島慶さんが語る「意欲格差と教材の可能性」

EdTechビジョナリーインタビュー 第1回


 近年のICTの進化に伴い、オンラインの遠隔教育やアダプティブ・ラーニングなどを活用し、意欲があれば自分で調べ、学べる環境が手に入るようになってきた。しかし、その一方で「意欲の有るなしで差がついてしまう時代になった」と株式会社花まるラボ 代表取締役の川島慶氏は指摘する。そうした意欲の格差を解決し、誰でもきっかけを掴んで学べる教材として同社が開発したアプリが「Think!Think!(シンクシンク)」だ。川島氏を中心とする東大卒精鋭チームが作成する問題は、空間認識・平面図形など50種類10,000題を越え、楽しみながら意欲的に思考力が鍛えられると言う。川島慶氏がなぜ「意欲」や「思考力」にフォーカスするのか、その経緯や思いとともに「Think!Think!」の考え方や特徴について伺った。

株式会社花まるラボ 代表取締役 川島慶氏

株式会社花まるラボ 代表取締役 川島慶氏

意欲の格差が広がる時代、意欲を育み、学べる機会を提供したい

――川島さんが教育という分野に携わるようになった経緯についてお話いただけますか。

 仕事として意識するようになったのは、大学3年生から始めた「花まる学習会」でのアルバイトがきっかけでしょうか。たまたま「花まる学習会」の求人広告に出ていた数学の問題に興味を持ち、代表の高濱正伸の著書『小3までに育てたい算数脳』を読んでみたら大変共感したんです。そこには自分がぼやっと考えていたことが、バシッとまとめられていました。

 アルバイトでは花形&看板教材である「なぞぺー」の問題を作ったり、子どもたちを連れて野外体験に行ったり、高濱のもとでいろいろ経験させてもらいました。その中で「150年続いた、黒板を前に1人の先生が教える“一斉指導”はついに終わるんだ」と実感するようになり、新しい教育法を模索していた「花まる学習会」を運営する「株式会社こうゆう」に大学院卒業と同時に入社したんです。

 「花まる学習会」の授業は、子どもたちが元気いっぱいで、初めて見た人はびっくりするんです(笑)。特に小学3年生までの子どもたちが対象の授業は、4年生以降の学習法とはまったく違っています。というのも10歳に満たない子どもたちというのは、何度言っても忘れるものだし、叱られても後に引きずらずにケロッとしている。ちょっと性質が違うんですよ。だから、体を動かしながら作業する、みんなで一斉に取り組むとか、子どもが集中できるような工夫が随所になされているのです。

 メソッドもユニークですが、理念も「将来メシが食える大人を育てる」というもので、それにもすごく共感しています。いい大学に入ることやお金が稼げる仕事に就くことではなくて、社会人として自立し、生活していけることが大切だというわけです。そんな熱い思いを持つ教育者のもとで、子どもたちが生き生きと躍動していて、その場に参画するのは本当に楽しいものでした。でも、ふと「こういう場にこられない子どもはどうするんだろう」と考えるようになったんです。

――なるほど、その思いが「意欲格差の是正」を目的とした「花まるラボ」の設立へとつながったわけですね。

 そうですね。「花まる学習会」も「公教育を変える」という目的のもと、私塾という形で教育を提供してきたのですが、そこにも来られない子どもたちも大勢いるわけですから。

 私自身、公立小学校や児童養護施設などで学習支援や教員研修を手がけ、多くの子どもたちと接する中で、学びにおける家庭環境の影響の大きさを実感するようになりました。例えばある児童養護施設では、打ち解けようとじゃんけんを取り入れたゲームをやろうとしたんですが、「じゃんけん」すらも嫌がる子が多かったんです。

 確率でしかない「じゃんけん」に自信を持てないでいる。それはショックでした。そして、この「意欲の格差」こそ根本的な社会の問題だと強く認識するようになりました。

 少し前を振り返れば、大学受験の「地域格差」を東進ハイスクールがなくしたと言われています。それでも予備校に通えないという「経済格差」を、オンラインで大学の講義を無料で受けられる「MOOCs(ムークス)」や予備校の授業を月額1000円で受けられる「スタディサプリ」などが登場することで一部解決してきました。

 お金がなくても、地域的なハンデがあっても、意欲さえあれば学べるという環境になったのは素晴らしいことです。しかし、私が関わってきた子どもたちの中にはそうした意欲すら持てない子もいる。その子どもたちに何を提供すればいいんだろうと。それが「花まるラボ」の根源的な問いになっています。

学力・知性を大きくドライブする「思考力」、教材の力で講師不在でも学べるように

――「花まるラボ」で提供する「Think!Think!」は、意欲格差を解決すべく、「意欲」を育むことをコンセプトに開発されています。具体的には、どのような教材なのですか。

 「Think!Think!」は、空間認識・平面図形など50種類10,000題の問題が収録されている思考力育成アプリで、1回3分の問題に1日3回まで取り組むことができます。コンテンツは現在も増え続けており、デジタルで視覚的にイメージしやすく、レベルに合った問題が出るので「できた!」という達成感を得ることができます。

空間認識・平面図形などの問題を解くことで思考力を鍛えられるアプリ「Think!Think!」(製品紹介ページより抜粋)
空間認識・平面図形などの問題を解くことで思考力を鍛えられるアプリ「Think!Think!」(製品紹介ページより抜粋)

 意欲や自信を失っているような子でも、手元に届いたら「やってみたい!」「分かった!」「楽しい!」と続けたくなるような教材を目指しています。楽しみながら学習意欲を高め、継続的に子どもたちの思考センスのトレーニングに貢献することが目的です。

 私が考える「思考センス」とは、社会に出て生きていくために「最も大事な力」のこと。1や2を聞けば、10まで想像して考えられる。そうした力を3年生までに身につければ、その後の学びに応用していくことができると思うのです。

 発揮される学力・知性が「意欲」×「思考力」×「知識・スキル」の総合力だとしたら、世の中にある教育は「知識・スキル」が中心です。でも、意欲や思考力がなければ何を掛け合わせてもゼロのまま。だからこそ、たった10分でも「意欲」×「思考力」を鍛えられる機会を作りたい。そうすれば、その子の学び自体も、大きく変わっていくでしょう。

 一人ひとりの子どもに教えることも、教員研修にも相当の時間がかかります。でも、教材なら「さあ、やってごらん!」と解かせるだけで、子どもたちは楽しみながら自然と思考法をトレーニングすることができる。そして、その様子を見せることで先生にもいい影響が与えられるかもしれない。そんな教材が持つ力に希望を抱いているのです。

 もちろん「Think!Think!」だけで十分とは思っていません。例えば野外学習会のような"カンフル剤的な"取り組みも行なっていますし、これからも、そのような取り組みは続けていきたいと思っています。毎年、カンボジアに子どもたちを連れていく体験を企画して引率していますが、「こんなに1回の体験で子どもって変わるんだ!」という感動があります。こうした「たった1回の経験がその後の人生を変えてしまう」ような原体験を提供することも、大切にしていきたいと考えています。

次のページ
子どもたちの観察から盛り込まれた工夫が多数、将来的には個々の思考力を見出す指標にも

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この記事の著者

斉木 崇(編集部)(サイキ タカシ)

株式会社翔泳社 ProductZine編集長。 1978年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学専門分野)を卒業後、IT入門書系の出版社を経て、2005年に翔泳社へ入社。ソフトウェア開発専門のオンラインメディア「CodeZine(コードジン)」の企画・運営を2005年6月の正式オープン以...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


伊藤 真美(イトウ マミ)

エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


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