勉強で「しんどい思い」をしている子をなくしたい
教員歴14年の蓑手章吾氏は、公立小学校のほか、特別支援学校での勤務経験を持つ。現在は、2022年4月に東京都世田谷区に開校したオルタナティブスクール「HILLOCK初等部(以下、ヒロック)」の校長にあたるスクールディレクターを務め、自ら指導にもあたっている。また、同時に教育コンサルタントとして、全国の学校で自由進度学習やICT活用などをテーマにした講演や書籍執筆なども行っている。
最初に蓑手氏は「自由進度学習は『令和型』と言われているが、日本では大正時代から行われており、海外でも活用されている。特別支援学校でインクルーシブ教育を実践した際に『すべての子たちが学びを楽しめる授業の方法』を考えて行きついた先が、この自由進度学習だった」というエピソードを紹介。自身が実践を始めた経緯を語った。
もともと一斉授業派だった蓑手氏は、これまでの学校現場での経験を振り返り「なかなか一斉授業を手放すことができなかった」と話す。しかし、現在の学校教育における学力が本来目指している平均化ではなく、フタコブラクダのコブのように二極化していることを知り、「これは誰のためにもならない」と考えたという。
その上で「『自由進度学習は学力の格差を拡大する』と誤解されがちだが、そもそも格差を広げないことが最上位目標ではない」とし、「本来、苦手を持っていたり、勉強の楽しさがわからなかったり、しんどい思いしていたりする子どもたちを1人でも減らすことが最上位だと思っている」と述べた。
だからこそ「もっと自由でいいんじゃないか」と蓑手氏は語る。「難しければ、前の単元や学年に戻ってみてもいい。逆に、次の単元やもっと先までやるのもいい」として、自分が考える次の一歩を歩んでいれば、それが「学びの楽しさ」であることを伝えた。
「85%の安定」と「15%の挑戦」
次に、蓑手氏は発達心理学に基づいて行っている「自由進度学習」について解説した。「ゴルディロックスの原理」にある「人間は、簡単過ぎず難し過ぎないものに、もっとも高いモチベーションを持つ」ことを引用し、「教育的効果においては、85%理解できているものがもっとも効果的である」と説明。「一番よいのは『85%』の安定」とし、心理的安全と習慣を形作り、より早くアウトプットできるようにすることの重要性を述べた。
その上で蓑手氏は「15%の挑戦」を、未知に挑んで自分の幅を広げていく部分と定義する。発達心理学者ヴィゴツキーの「発達の最近接領域(ZPD)」を例に挙げ、「友だちや先生の力を借りて、一歩先へ挑戦できるというのが学校であり、学びの楽しみでもある。自分で次の階段を作ることによって自己調整力が身につき、自分で学びを進めていける」と話した。