学校の役割が小さい「小さな学校」へ――国際バカロレアから学べること
研究会の後半では、テーマのひとつである課題解決能力と学校の役割について、ゲストスピーカーである教育ジャーナリストの後藤健夫氏が講演した。
後藤氏はまず、「世の中には正解のない問いが出てくる。これをどうやって解いていくのか」として、「脱・正解主義」を呼びかけた。「答えが1つに決まらない問題は悪とされ、センター試験では廃問になってしまう」のが現在の教育であり、「正解があるから、ものを考える」構造になっていると指摘。例えばワークショップなどで発言できないのは「正解を求められているから」。正解がない問いを議論するためには正解主義からの脱却が必要になる、というのだ。
「問題解決」は、こうした正解のない問いに対するアプローチであり、自ら課題を設定して最善解を見いだす必要がある。後藤氏は問題解決を「さまざまな環境に置かれた人、さまざまな宗教、考えを持った人たちの中で問題を見いだして解決すること」と定義。さらに「解決というよりも折り合いをつけること」と付け加えた。
また、「『優秀』の定義が変わってくる。高度な教育を受けたかどうか、試験で何点取れたかではなく、全く新しい状況で何ができるか。未知の問題解決ができるかが重要になる」と後藤氏は続けた。
こうした能力を育もうと、1968年にスイスで誕生したのが「国際バカロレア(IB)」だ。世界平和に重きを置き、人が持つ違いを理解して認め合うことができること、生涯にわたって学び続けることなどを目指す。後藤氏は「知識を自分なりに理解し、吟味し、自分の意見を持ち、それを人と共有し、きちんと表現できるように育てることを目標としたプログラム」という、ニューヨークにある国連国際学校(UNIS)のIB教育者の言葉を紹介。日本でも政府が重要性を認め、国内にIB認定校を200校に増やすことを目標に掲げている。
IBでは生徒自らが課題を探し、解決のために系統立てて考えるが、後藤氏は現在の体験学習について「系統立てること」が抜けていると指摘。またIBの特徴として、知の理論といわれる「TOK(Theory of Knowledge)」も取り上げた。後藤氏はTOKを「『知識とは何か』を知る、そして知識そのものをも批判的に捉える批判的思考」と説明し、日本の学習指導要領には思考の訓練をする機会がないと指摘した。
続けて後藤氏は、「自ら課題を設定してそれに取り組む、そんなプロジェクト・ベース学習(PBL)が有効だろう」「TOKを利用し、地域課題解決のPBLをやってはどうか」とも提案した。
人生100年時代といわれる一方で、AIが仕事を奪ってしまう懸念も出てきている。「一生学び続けること、自分の能力を客観的に示すこと」が重要だ、と後藤氏。併せて、「学ぼうとする原動力を養うため、学習している人を社会がもっとリスペクトする必要がある」とも提言。「学歴社会から学位歴社会、さらには学習歴社会へ。どこを卒業したかよりも、何を学んだか」と変化の必要性を訴えた。
学校の役割はどうか。「学校の仕組みと役割を捉え直した方が良い」というのが後藤氏の意見だ。「大きな国家、小さな国家という考えがあるが、現状の学校は大きい。役割を少なくして『小さな学校』にするべき」と提案した。
そこで問題となるのは「基礎学力をどうやって身に付けるか」ということだ。それについては、「『読み書きそろばん』はGoogleがやってくれる時代、これからの時代の『学習リテラシー』を議論すべきだ」と続ける。「EdTechが浸透した際に学校の機能はどうあるべきか? 学習が個別化し、PBLをやる――他にはないのか? その時の教師の役割は?」と先回りの議論につながる糸口を示した。