大学教育のDXに必要なことは何か
シンポジウムの冒頭、関西大学の学長である前田裕氏は、教育DXについて「対面とオンラインの二項対立ではなく、相乗効果によってよりよいものになると期待している」と語り、「DXで教育は変わる。どこがどう変わるのか、教室の本質を見据え、ぜひ議論をしてほしい」とシンポジウムの目的を語った。
続いて、文部科学省 高等教育局専門教育課 課長補佐 木谷慎一氏から、本補助事業の目的が紹介された。木谷氏からは「関西大学は、多様性を重視した能動的・実践的な教育をDXで実現しようという取り組みに先導性があり、先駆的なスマートキャンパスのトータルデザインも評価されている。ぜひ、シンポジウムを通じて各大学での利活用に役立ててほしい」との言葉が贈られた。
基調講演は「教育DXによる次世代の高等教育の創出を目指して」と題し、京都大学 高等教育研究開発推進センター長・教授である飯吉透氏が登壇。「教育のDX(デジタルトランスフォーメーション)で、教育をDX(デラックス)に!」と掲げ、「コロナ禍に関係なく、オンライン・ブレンディッド教育で個々人の目的・必要に応じた教育が求められている。洗練された教育ツールや豊富な教育リソースを用いて、多様な方法で学べる形で実現することが重要」と訴えた。
そして、データ分析による個別対応の重要性と、リアルとバーチャルの相乗効果について言及。これらの取り組みによって「自大学の教育的価値や魅力を向上させ、学内・国内・地域・世界での貢献・連携・プレゼンスを高めてほしい」と語った。
さらに飯吉氏は、年代ごとのキーテクノロジーを紹介。1990年代はeラーニングやeコーマースなどの「Eの時代」、2000年代はオープンエデュケーションやオープンソースなどの「Oの時代」、2010年代はコラボレーションやコミュニティなどの「Cの時代」と説明。そして、2020年代はPersonalization(個人対応)やProactive(先見的に行動)などによる「Pの時代」、今後はVR(Virtual Reality)& ER(Extended Reality)やVariety(多様性)などの「Vの時代」へ向かっているとした。
しかし「日本の大学における教育的ICT活用や教育イノベーションは『Eの時代』で停滞している」と飯吉氏。その状況を打開するためには「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」のような制度・政策面だけではなく、教職員や学生が自発的にICTを活用し、学生が主体的に学べるようなインセンティブや工夫が必要であることが強調された。
こうした「新しい学び方」は、学修者だけでなく大学にとっても大きな意味を持つ。「グローバル化・フラット化する世界」では、他の業界同様、21世紀の教育におけるパラダイム転換が求められる。いわば大量生産的・画一的な知識や技能の習得から、コミュニティをベースとした興味・能力・必要に応じたオンデマンドな知識・技術の習得へと変化する必要があり、そこにICTやAIの活用が大いに役立つ。
飯吉氏は「こうした構想を得るため、大学の未来を『大学の外側から考える』ことが重要」と強調。「未来の社会がどうなっているかを想像し、そこから教育を改革することを考えるべき」と語った。そして、そうした視点から教育のあり方を模索する事例として、ミネルバ大学のアプローチである、対面とオンラインを統合(ブレンディッド)した新しい学習を紹介した。そこへさらにさまざまな要素を組み合わせ、それぞれの大学の学びにふさわしい「ベストミックス」を模索することになるという。
その中でも象徴的なトピックが、大規模公開オンライン講座(MOOC=Massive Open Online Course)の急増だという。この10年で飛躍的に拡大し、既存の学位プログラムとの組み合わせで「自分らしい学び」を創出することが可能になった。今後は、こうした複数の大学・教育機関にまたがる「横断型の高等教育」の質の保証が課題になってくると思われる。
そうした新しい教育の制度・仕組みづくりは、当然ながら大学の取り組みだけでは十分とは言えない。飯吉氏は「大学と国との双方向で意見を交換し、必要な規制緩和や新たなガイドラインづくりなどを進めていく必要がある。こうしたシンポジウムが意見交換の場になれば」と期待を寄せ、まとめの言葉とした。