「使わなければ」から「使い倒していく」へ
セミナーは、中川氏の「GIGAスクール構想の開始から約1年が経過して『とにかく使わなければ』といったフェーズは一段落した。いかに『使い慣らしていくか』『使い倒していくか』へと移行している」という話からスタートし、村井氏と小林氏との3人による鼎談形式で進められた。
中川氏は、今後のGIGAスクール構想のポイントとして「『使ってみた』の段階から、いよいよ『教科の本質にどう迫れるか』という点に戻ってくる」こと、そして「いかにして文房具のように『普段使い』ができるのか」の2点を挙げた。
次いで村井氏は「これまで紙のノートに書いていたことを、端末へ移行すること自体は授業のねらいに迫る大きなポイントではないものの、これにより一人ひとりの考えをきちんと端末で残すことができる。端末に書くとクラスメイトに伝えたくなる」と、協働学習につながっていく流れを解説した。さらにねらいに迫るためには、子どもたちが「ほかの人たちの考えを知りたい」と考えるタイミングで協働学習支援ツールを活用するなど「教員による味付けが重要だ」と述べた。
これを受けて、小林氏も「1人1台端末は、多くの学校で若手教員が率先して使い始めているが、ある程度落ち着いてくると、授業の中で本当に効果的な活用を行っているのは、ミドルリーダーの教員になってくる。これまでの各教科での実践や、授業の知見の蓄積があってこそ、その中にICTを位置づけることができる」と分析した。
一方で「授業力は高いものの、これまで目立つ実践がなかった」という教員の中に、ICTとの親和性が高く効果的に活用できている例が表に出てきたことを挙げ、これまで評価されにくかった教員が適切に評価されるといったメリットも示した。
「普段使い」の肝は授業時間外の活用にある
中川氏は普段使いの話題に戻り、「文部科学省の手引きには『文房具と同様に』と明記してあるものの、実際に行うことはなかなか難しい。教科学習以外での活用なくして普段使いはなく、結果として授業での効果的な活用に迫ることもできないだろう」と考えを述べた。
これを受けて小林氏は「普段使いは、授業時間外の活用が肝」と発言。多くの自治体や学校で議論になっている「休み時間に端末をどう使わせるか」という問題に触れた。
小林氏は一例として、札幌市立幌北小学校の事例を紹介。同校では児童に「何のために、このアプリを使うのか」と問いかけ、低学年であっても子どもたち自身に考えさせる機会を設けている。「目的意識を持たせることが、遊びではなく学習のツールとして普段使いする際のひとつのポイント」だと解説した。さらに別の例として、那珂市立芳野小学校の「とにかく自由に使わせる」というスタイルも紹介し、「トラブルが起きることも想定した教員の覚悟も必要」と伝えた。
村井氏は「これまでICTを活用していたのは、研究校として端末を導入したり、校内にすごくできる推進役の教員がいたりする学校だったが、現在は全国どの学校もほぼ同じ環境にある」とし、「教員や子どもたちがICTを使う度合いが高まることを想定して、バックアップ体制が整いつつある」と解説した。
その上で、中川氏は「普段使いのポイントは『慣れる』こと」だと述べ、「慣れるには、意識せずどんどん使っていく一方で『紙とアプリどちらがよいか』と立ち止まってその場で考え、意識することも大事」と語った。