「子どもたちがデジタルの価値創造者になること」を目指す、みんなのコード
2003年にスタートした「Developers Summit」は今年で20回目。今回は、10年前となる「デブサミ2012」のテーマ「10年後も世界で通じるエンジニアであるために」と同じく、技術や世界が大きく変化する中での「10年」をキーワードにさまざまなセッションが行われた。
利根川裕太氏は一般社団法人みんなのコード(※編集部注:当時。2017年よりNPO法人)を2015年に設立し、全国の学校におけるプログラミング教育の普及に尽力している。さらに、文部科学省「小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議」(2016年)や、経済産業省「デジタル関連部活支援の在り方に関する検討会」(2021年)などの委員を務め、提言を行ってきた。
利根川氏は「企業のエンジニアとして軽い気持ちからプログラミング教育に関わったところ、思いがけず大きなミッションになっていった。皆さんも、エンジニアとして次世代のことや、公教育とテクノロジーがどう交わるかということを考えていただきたい」とし、みんなのコードの歩みや、全国で76万人の小学生が使う、同法人提供のプログラミング教材の概要などについて紹介した。
みんなのコード設立のきっかけとなったのは、2014年に利根川氏が所属していたIT企業での社内プログラミング勉強会だった。利根川氏は「エンジニアと非エンジニアで文化やテクノロジーへの理解が違うことを課題として感じていた」と当時を振り返る。そこで、エンジニア以外の社員にもテクノロジーを体験してもらうため、アメリカの無料プログラミング学習サイト「Code.org」を使って、親子向けプログラミング勉強会を行ったところ、子どもたちの楽しそうな様子を目にした。利根川氏はこれらの経験から「これからの時代は子どもたちが身近にプログラミングを体験できる機会が必要」と考え、「すべての子どもがプログラミングを楽しむ国にする」ためのプログラミング教育の非営利団体を立ち上げた。
みんなのコードは「子どもたちがデジタルの価値創造者となることで、次の世界を創っていく」というビジョンのもと、全国のプログラミング教育を行う学校教員に向けた研修や教材開発のほか、もっと学びたい子や不登校の子のための居場所づくり、政府への政策提言などを行っている。
「単にゲームやアプリで遊ぶだけでなく、困ったときにアプリをつくってみたり、表現したいものをつくったりと、『発信する側』になってほしい。そして教室だけにとどまらず、ゆくゆくは世界をつくってほしい」と、利根川氏はみんなのコードとしてのミッションを語り、実際に「価値創造者」として自ら課題解決のためのアプリなどをつくりだした子どもたちの例を紹介した。
プログラミングの授業に悩む教員をサポートする教材「プログル」
続いて、利根川氏はみんなのコードが開発したプログラミング教材「プログル」を紹介した。プログルは無償で利用できる教材で、小・中・高校向けがそれぞれ用意されている。Webブラウザ上で動くため、端末の種類や学校の設備も問わない。小学校向けには算数と理科、中学校向けには技術の授業で使えるカリキュラムが用意されており、ブロックプログラミングを使ってレッスンを進めていくドリル型の教材となっている。高校向けでは2022年度に必修化される「情報I」に対応。「学習指導要領のカリキュラムに沿ってPythonを学び、安全に利用できるWeb APIなども用意している。一つひとつステップ・バイ・ステップで進めることによって、プログラミングがわからない先生も指導できるように開発した」と利根川氏は解説する。