都市を制御するスマートシティ
みなさまは「スマートシティ」という言葉を聞いたことがありますか? スマートシティとは、ITを活用して、人々の生活を効率よく、便利にしていく都市のことです。そこでは、再生可能エネルギーを必要な場所に効率よく供給するための仕組み「スマートグリッド」を中核に、省エネルギー化による環境への配慮や、工場の自動化、医療での活用、交通システムの制御などを進めています。日本でも、千葉県柏市の「柏の葉スマートシティ」などで推進されています。
身近にある家電やコンピュータとは違い、スマートシティでは、手にとることのできない大きなものや、広い範囲を制御する仕組みも自動化していきます。これらもプログラムによって制御されていて、根本的な考え方・仕組みは第3回で解説したものと変わりません。
では、実際にどういったものがスマートシティで制御されていて、どこにプログラムが活用されているかを紹介していきます。プログラムを学んでも、ゲームや家電にしか生かせないわけではなく、さまざまな分野で活用できます。プログラミングの持つ重要性と、将来性についてご理解いただければ幸いです。
環境に配慮した都市をつくるスマートグリッド
地球温暖化への対策として、CO2の排出量を抑える取り組みを世界各国で進めています。日本では、火力発電から原子力発電へと移行を進めていたことを、みなさまもよくご存知であろうと思います。しかし、2011年3月11日の原発事故を発端に、原子力発電所の多くは運用を停止しています。このため、現在の日本では主に火力発電による電力生成に立ち戻っています。
こういった問題の解決策として、「再生可能エネルギー」の見直しと「スマートグリッド」の推進があります。
まず、「再生可能エネルギー」は、地球環境に配慮したクリーンエネルギーですから、地球温暖化問題への対策として注目されています。「再生可能エネルギー」とは、太陽光や風力といった自然界に常に存在するエネルギーのことです。「太陽電池」などがよく知られているでしょう。太陽光だけで電力を生成し、機械を動かすもので、電卓や腕時計などで多く利用されています。今では、家庭やオフィスのビルでも屋根や屋上に太陽光パネルを設置して、家庭・オフィス用の電力として利用する動きがあります。
この「再生可能エネルギー」を主として、電力を生成する電力会社も出てきました。さらにこれは日本だけではなく、海外でも進められていて、ドイツでは2050年までに発電比率の80%を自然エネルギーに引き上げることを目標にしています(平成28年度低炭素社会の実現に向けた中長期的再生可能エネルギー導入拡大方策検討調査委託業務報告書内 参考資料1 ドイツのエネルギー変革に関する動向調査 より)。
これを受けて、消費者も、再生エネルギーを生成する会社からのエネルギー供給を期待する動きがあります。今までの大手電力会社ではなく、新たな小売電力供給会社が生成した電力を、必要な家庭に適切に供給する仕組みが必要になってきました。「各家庭で必要な電力を新しい電力会社から正しく供給」し、「料金を正しく回収」する新たな仕組みが求められます。これらを実現するのが「スマートグリッド」です。
スマートグリッドは、必要な場所に必要な量を送電する仕組みで、通信機能付きの電力量を計測する機械である「スマートメーター」との組み合わせで実現されます。スマートメーターは、消費者側の電力の使用量をリアルタイムで計測します。電力を送り届ける側は、スマートメーターの結果を元に必要な場所に必要な分だけの電気を供給します。
供給側は、スマートメーターで計測された情報を、すぐプログラムによって計算します。例えば、Aさんの家での使用量が1000Wで、Bさんの家では500Wだったとします。このとき、Aさんの家へ1000W以上、Bさんの家へは500W以上の電力が確実に供給されなければ、各家庭の電気は止まってしまいます。このための計算を瞬時に行い、送電を制御しているものが、プログラムです。
また、各家庭の使用量がリアルタイムにわかるとすれば、電力会社の検針員が各家庭を回らずとも、電気料金を計算することができます。電気料金の計算も、プログラムによって実現できます。
家庭の数だけ電気料金を計算することは、とても膨大な数量になって大変だと思われるかもしれません。ですが、プログラムは同じ処理を何度も、正確に実行することが得意です。あつかう規模が大きくなったとしても、正しく計算するためのプログラムを1つ記述することさえできれば、あとは同じものを使って、必要な家庭の数だけ繰り返し計算させれば十分なのです。