「ICT×図工」で教育界のノーベル賞トップ50に選出
今年で教員歴12年目という岩本紅葉教諭は「SOZO.Ed」「Type_T」といった学校を越えた先生方のコミュニティに参加し、ワークショップや講演を行っている。また、2020年には教育界のノーベル賞と言われる「Global Teacher Prize 2020」のトップ50に選出されたほか、文部科学大臣優秀教職員として表彰されるなど、国内外でも実績が認められている。
ICTをフル活用しているイメージのある岩本教諭だが、セミナーの冒頭では「図画工作はアナログの活動が大切な教科。例えば、絵の具の質感はコンピューターでは表せないし、粘土の手触りも実際に触れないとわからない」と、参加者に伝えた。
その上で、図工でICTを活用するメリットとして以下の5点を挙げた。
- 何度でもやり直すことができる。
- 作品を動かすことができる。
- ダイナミックなアウトプットができる。
- 多くのフィードバックを得ることができる。
- 創造活動に苦手意識を持っている児童への手助けとなる。
画用紙に直接描くことと異なり、ICTは間違えても戻ることができるため、苦手な児童も何度でもやり直すことが可能だ。また作品が完成した際に、広い空間での展示や、多くの人に見てもらうといったダイナミックなアウトプットをすることで、多くのフィードバックを得ることができる。
さらに最もワクワクするポイントとして、岩本教諭は「ICTを使って作品を動かすことは、作品に命を吹き込むイメージ」と語る。
一方で、ICTのデメリットは「ICTの活用力に差が出る」ことだという。アナログな活動は得意でも、ICTを苦手とする児童に対しては配慮が必要となる。また、手触りや身体性については、ICTはアナログにはかなわないこと、学校によって使えるICT機器が異なるため、ハード・ソフト面で制限されることなどもデメリットとして挙げた。
そのような条件下において、ICTのメリットを取り入れる際に岩本教諭が意識しているのは「ICTを画材のひとつとして捉える」ことだ。鉛筆や絵の具、筆、ハサミ、のこぎりといった道具のひとつとしてICTを捉えると、バランスよく授業を進められるという。
「ICTとの出会い」を大切にした授業実践例
岩本教諭は「私が授業実践の中で大切にしているのは、子どもたちとICTが出会う瞬間。その出会いの部分と、アウトプットする部分にフォーカスしてお話ししたい」と語り、現在の勤務校と前任校で行ってきた「図工×ICT」の事例を紹介した。いずれも非常にユニークで、見ているだけでも子どもたちのワクワクが伝わってくるような事例ばかりだ。順に紹介していこう。
【事例1】3年生「すみっこタウン」
こちらはテクノロジー企業であるチームラボとのコラボレーションで実現した授業で、図工室や廊下に、自分たちでつくった建物や車で小さな町をつくり上げるというものだ。同社協力のもと、子どもたちが描いた絵をスキャンすると展開図が印刷できる特別な機械を使用した。
「この機械との出会いによって『自分の絵が立体作品にできるんだ!』という感動から授業をスタートできた」と岩本教諭。展開図でつくった家や車を参考に、児童自身がイメージを膨らませていき、最後は自分の力だけで立体的な作品をつくっていったという。そして「この授業ではICTの力を借りることにより、図画工作や立体作品が苦手な子どもにも援助や支援をすることができた」と振り返った。
【事例2】4年生「Lets parade!!」
こちらも、ICTと子どもたちとの出会いを大切にした授業として紹介された。ロボット教材「Sphero BOLT」や「mBot」を使って、身近なものでつくった車を動かす内容だ。指導書には「風やゴムの力で作品を動かす」ことが例示されているが、それに加えて「プログラミングで動かすことも考えられる」と記載されている。そこで、岩本教諭は動力としてロボット教材を使用することを決めた。
「風やゴムを動力とするのも面白いが、ICTやプログラミングを使うと、自分のイメージ通りに作品を動かすことができる」と岩本教諭。「コロコロと動くSphero BOLTに出会った瞬間、子どもたちは『自分の作品を動かしたい』というスイッチが入ったと思う」と、岩本教諭はICTと子どもたちとの出会いを振り返る。
また、風やゴムの力では軽いものしか動かせないが、ロボットを使うと重量を気にすることなく、友だちの作品をつなげて一緒に動かすことができる。授業動画では子どもたちが歓声を上げながら楽しそうに鑑賞している様子が紹介された。