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単なるICT導入だけでは成功といえない――必要なのは「Ungooglable Question」に答える力

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2017/11/21 14:00

 2013年に近畿大学附属高等学校・中学校が、eラーニングアワードの文部科学大臣賞を受賞した。それまでの取り組みについて、同校の乾武司氏(ICT教育推進室室長)が経緯とポイント、さらにICT導入を成功させるために必要な考え方を講演で発表。こちらは一般社団法人e-Learning Initiative Japanが主催した「eラーニングアワード2017フォーラム」の中で、「ICT導入の『本当の成功』に向けて」と題し、実施された。

近畿大学附属高等学校・中学校 ICT教育推進室室長 乾武司氏
近畿大学附属高等学校・中学校 ICT教育推進室室長 乾武司氏

生まれながらに接しているインターネット、そこから隔離した教育は無理がある

 ネットワークによってコンピューターがどこでも使えるユビキタス社会を経て、現在はあらゆるモノがインターネットにつなろうとしているIoTの時代だ。乾氏は、社会環境の変化を説く。

 「現在の子どもたちは、生まれたときから当然のようにICTに接し、使ってきている。この状況で、学校の中だけ携帯禁止、スマホ禁止と言っても無理がある。ある携帯電話キャリアのCMのフレーズだが、今の高校生は、大人世代のただの後輩ではない。古い感覚で当たり前の環境を制限・隔離することの異常さに気付くべきだ」

 実際、OECD加盟国に対して行った調査(PISA)では、日本は、学校や教育現場におけるICT活用の割合と、ICT活用能力が下位グループに属している。また、自宅や校外での利用も進んでいないと指摘する。

導入時のポイントは4つ

 先述した考えのもと、乾氏は2013年に同校でのICT導入の取り組みをスタートさせる。高等学校全体で3000人規模、つまり一学年あたり1000人前後の生徒が在籍する大規模校だが、導入の最初の年から一人1台タブレット(iPad)を実施したという。

 導入費用は生徒(保護者)負担とした。それは、中途半端な導入ではなく最初から全員が利用できる環境を作るためでもあった。他の教員や一部の保護者からは反対意見が挙がったものの、最終的には理事長の決断で導入のGOサインが出た。導入後も取り組みに否定的な意見はあったが、その年度のeラーニングアワードにおいて文部科学大臣賞を受賞した。この受賞によって、反対していた教員も協力するようになったという。

 導入にあたり、乾氏がこだわったポイントは4つある。

 「ひとつは最初から一人1台の環境にこだわったこと。次に、学習ポータルも環境に見合ったものへ整備したこと。そして、クラウド接続により柔軟性を持たせたこと。最後は利用を学習目的に限定しないこと」

 乾氏は学校におけるiPadやICTを、単なる教材やeラーニングツールとしてとらえていない。授業での生徒とのやりとり、保護者との連絡、さらに授業をペーパーレス化するツールとしても考えている。単にタブレットを導入すればOKとするのではなく、授業支援やコミュニケーションといった機能も重視した結果、学習ポータルの整備も必要となった。また、教室以外でも活用してもらうため、クラウド接続も選択した。目指したのは、一般企業並みのICT環境だ。

整備した学習ポータル
整備した学習ポータル

 さらにタブレット利用は学習目的に限定することなく、一切の制限をかけず、アプリもダウンロードし放題とした。ゲームやLINEも禁止しない、利用時間も制限しないという徹底した自由裁量を貫いた。

教員視点でのICT導入では効率化しか見なくなる

 乾氏は、「今でもそうだが、学習ポータルにクラウド接続をする学校は珍しい、ゲームOKなど聞いたことがないと多くの人に反対された」と振り返る。この点にこだわったのは、次の理由からだ。

 「通常、教育ICTの取り組みでタブレットなどを導入する場合、教員が教材や素材を生徒に見せたり投影したりするといった使い方がまず考えられる。これにより教員は、生徒に示す情報量を増やして効率化することが可能だ。もう少し進めると、生徒にもタブレットを持たせ、教員側と生徒側、それぞれからの双方向コミュニケーションが可能になる。しかし、ここで満足してしまうと、ICT導入の目的や効果が主に教員の効率化で終わってしまう。生徒からのフィードバックがあるとしても限定的だ。効率化だけが目的だと、利用時間を制限したりアプリを制限したり、使い方を細かく管理しなければならない。これは思っているICTの活用ではない」

タブレット導入により生徒からのフィードバックが得られるが、ここまでは効率化が優先され従来型授業の発展形でしかない
タブレット導入により生徒からのフィードバックが得られるが、
ここまでは効率化が優先され従来型授業の発展形でしかない

 理事長らと共有できたポリシーは「子どもたちは未来からの留学生。その可能性を信じて、生徒の考えや行動を制限すべきではない。大人は成長のじゃまをしてはいけない、ということだ」と乾氏は力説した。


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著者プロフィール

  • 中尾 真二(ナカオ シンジ)

    フリーランスのライター、エディター。 アスキーの書籍編集から始まり、翻訳や執筆、取材などを紙、ウェブを問わずこなす。IT系が多いが、たまに自動車関連の媒体で執筆することもある。インターネット(とは当時は言わなかったが)はUUCPの頃から使っている。

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