コロナ禍で子ども向けプログラミングスクールが受けた影響とは?
本来であれば、小学校での必修化元年であったプログラミング教育は、この度の新型コロナウイルス感染拡大によって水をさされる形となってしまった。必修化による注目度の高まりから近年増加したプログラミングスクールを例に挙げながら、このコロナ禍で教室運営者が直面した危機を振り返ると、3つの観点で次の影響が挙げられる。
【1】授業の継続、授業内容
感染対策を優先する上で、まずは「授業をどうするか?」が最初の難関となる。休校にするのか、オンラインにするのか、宿題や教材を配布して自習とするのか。オンラインと言っても、動画を配信するだけのものと、Zoomなどを利用した双方向性のあるものでは、性質が全く異なる。学校も含めて、この対応で各社の方針や特色が出た。
休校にするケース
緊急事態宣言および休校要請を受け、プログラミングに限らず多くの教室がまずは休校という措置をとらざるを得ない状況となった。
教材を配布して家庭学習できるようにするケース
この場合、新たに家庭学習用の教材作成、その配布(メールや郵送)など、教室運営者の負担は大きい。またロボットプログラミングなど各家庭での教材購入が発生する場合は家庭の負担も発生する。
オンライン対応するケース
オンラインと言っても、オンライン教材なのか、授業動画の配信なのか、ビデオ会議システムを使ったLive配信で双方向性のある授業なのか、内容はさまざまである。いずれにしても、システムなどを新たに用意する場合、運営者はコスト、リソースの負担をともに強いられる。
【2】授業料
休校措置や、授業内容に変更が生じた場合には、授業料をどうするかという問題も出てくる。多くは、休校した分の授業コマ数の振替実施を行うことで授業料を据置きとしているが、2カ月強にわたる休校によって、再開後、教室運営者は全生徒の振替の対応に追われた。
【3】退会者の発生・新年度入会者の減少
長期にわたる自粛制限が続く中、休校再開の目途が見えないと「休会したい」「いったん辞めたい」と考える生徒や保護者も増える。特に受験勉強ではない習い事はそういった判断をされやすい。また、教育業界において最も入会者が増える新年度の時期に感染拡大が重なってしまったことは非常に大きな打撃となった。
一方で、学校休校による在宅時間を有効活用するためにオンラインで受けられる習い事を探す家庭もあり、オンライン対応の可否によって新規入会の差は大きく開いたと推察される。
以上3つの観点から、教室運営者の負担増と損失が挙げられる。
では、この3つの観点でほぼ影響を受けずに成長を続けるにはどのような要素が必要なのか。小学生向けプログラミングスクールの教室数で国内最大手の、「QUREOプログラミング教室」を運営する株式会社キュレオ 法人サポートグループ マネージャー 齋藤千秋氏に話を聞いた。
CA Tech Kidsとスプリックスのノウハウを組み合わせて事業を拡大
――まず「QUREOプログラミング教室」について教えてください。
2019年4月に、CA Tech Kidsとスプリックスの合弁会社として株式会社キュレオを設立しました。CA Tech Kidsは、サイバーエージェントグループで2013年より小学生向けのプログラミング教室などを運営し、これまでに3万人以上の小学生にプログラミング教育を提供してきました。キュレオは、その学習ノウハウを活かして開発したオンラインプログラミング教材の「QUREO(キュレオ)」を、全国各地の塾事業者へ提供し、「QUREOプログラミング教室」を運営しています。教材の開発をキュレオが行い、全国各地の塾事業者にネットワークを持つスプリックスが営業および導入サポートを行う形で役割を担っています。
当初、教材「QUREO」は、一般のご家庭で自宅学習していただくオンライン教材として開発をしたのですが、小学生のお子さんが未経験からプログラミングを始める、しかもお母さんと自宅で、という障壁はやはりまだ高かったようで、なかなか会員を増やすことができませんでした。
しかし、教材の質には自信がありました。CA Tech Kidsが実際にスクール運営で7年かけて培った学習ノウハウ、それは初心者の子どもが習得しやすい手法や、プログラミングの基礎となる概念をどう体系立てて学んでいくのが良いかというカリキュラム編成を活用しているからです。
そこで、この教材をプログラミング教室を始めたい塾事業者へ提供することを考えましたが、もともとIT企業が母体であり、塾業界にパイプもコネもない私たちではうまく営業できなかったというのが正直なところです。そこに、スプリックスからお声がけをいただき、また2020年度プログラミング教育必修化目前という時期も相まって、キュレオ設立から1年となる2020年4月には、日本全国47都道府県に1700教室を展開し、小学生プログラミング教室数では国内最大となりました。その後も多くの事業者から引き合いをいただき、2020年11月末時点では2000教室数を突破しています。
――教育業界は、今回新型コロナウイルスの影響を大きく受けました。「QUREOプログラミング教室」は、どういった影響がありましたか?
今回の緊急事態宣言や外出自粛、ここまで長期にわたる全国的な学校休校などは予想もしていないことでした。ですが、実際のところ、「QUREOプログラミング教室」には結果としてマイナスの影響はなかったと言えます。
「QUREOプログラミング教室」では、緊急事態宣言前からオンライン授業対応に向けた準備を進め、Zoomなどを利用して授業を行う「双方向型」と、オンライン教材で自学自習を進める「自立型」の2つのオンライン学習形式を用意しました。
もともとがオンライン教材を使って授業を実施していましたから、その教材を生徒の自宅でも使えるようにするだけで、授業の質(学習内容と量)はリアル教室のときと変わっていません。ですので、例えばオンライン授業用に新たな教材を作成したり、それを郵送したりといった先生の負担もなく、自宅で教材をプリントアウトする保護者の負担もありませんでした。その結果、緊急事態宣言後も多くの教室でオンライン授業にスムーズに切り替えることができました。
そして、リアル教室と同水準の授業の質を維持しているため、授業料を下げる必要もなく、またこのコロナ影響による退会者はほぼいませんでした。