5人に1人と言われる、非常に敏感な子「HSC」
「HSC」という言葉を耳にしたことはないだろうか。「Highly Sensitive Child」の略称で、日本語では「非常に敏感な子」と紹介されている。5人に1人の割合で存在するとされ、音や匂いに敏感で、にぎやかな場所や集団行動が苦手といった傾向があり、学校生活に馴染めずに不登校などの原因になるとも言われている。
講座の冒頭では、まずHSCの特徴について紹介された。以下の質問に14以上当てはまるとHSCの可能性が高く、また14以下であっても項目の該当レベルによってはHSCの可能性があるという。
- 感覚に強い刺激を受けると敏感に反応してしまう。
- 環境の変化によく気づくほうだ
- 周りの人の気分によく左右される
- 痛みに対してとても敏感である
- 忙しい日は暗い部屋やベッドなど自分だけの空間で過ごしたくなる
- カフェインに対してとても敏感である
- 明るい光、強い匂い、ザラザラした布、近くでのサイレンの音などに敏感に反応してしまう
- 豊かな想像力を持っていて空想しがち
- 騒音などで気持ちが落ち着かなくなる
- 美術や音楽など芸術に感銘を受けやすい
- 時々気疲れしすぎてしまい、1人の時間が必要
- 良心的である
- ちょっとしたことで驚く
- 短時間でやることがたくさんあると取り乱してしまう
- 周りの人が落ち着かないと感じる環境にいるときはそうならないような配慮ができる(例:電気の明るさを変えたり、座席を移動させたり)
- 一度にたくさん頼まれるのを好まない
- 忘れものや間違いをしないように努力をする
- 暴力的な映画やテレビ番組はあえて避けるようにしている
- たくさんのことが自分の周りで起こると不快になる
- 空腹になると集中できなくなったり、気分が悪くなったりする
- 生活の変化に弱い
- デリケートな香りやいい香りを好む
- 一度にいろいろなことが起こると不快に感じる
- 苦しい、耐えられない状況は避ける、ということを普段の生活で最優先にしている
- 騒音や混乱した状況に悩まされる
- 誰かに見られていたり、競争させられたりすると、そうでないときに比べパフォーマンスが落ちる
- 両親や先生から「繊細な子」「内気な子」と思われている
Copyright, Elaine N. Aron, 1996
また、そのほかの質問として16項目が示された。こちらは3つ以上が該当すると「不安症」の可能性がある。
- 小さなことを常に心配している
- 変化を嫌う
- 授業に集中するのが難しい
- 新しいことに挑戦するのが苦手
- 落ち着きがない
- 幽霊や暗闇など、特定のものを過剰に怖がる
- 人前で何かをすることが苦手
- 集団に入っていくのが苦手
- 1人でいること(留守番など)にすごく抵抗がある
- 爪をよく噛む
- 自己肯定感が低い
- 心配性で何度も確認しないと気が済まない
- 人と接する機会を避ける
- 眠りが浅い
- 風邪じゃないのに頭痛または腹痛を訴える
- 保護者から離れるのを拒む
近年、少しずつ認知されてきたHSCだが、診断を受けて合理的配慮を受けることは難しいとされている。精神疾患ではなく、あくまで特性であり、特に米国では専門家でも認知度は高くない。
日本で認知度が上がっている理由として、道地氏はテレビ番組に取り上げられたこと加え、「空気を読むことを重視する」「学校は行くか行かないかの2択しかないことが多い」などの文化的背景が関係しているのではないかと分析する。「米国ならばホームスクーリングがあり、HSCの子どもでもストレスなく教育を受けることができるため、表面化しにくいのかもしれない」と言う。
では、HSCと不安症はどう異なるのか。該当するのはHSCが5人に1人、不安性が4人に1人と大きな差はないが、HSCは持って生まれた特性であり、不安症は環境または環境と遺伝の両方によって生じる。最も異なるのは「HSCは特性であり、生活に支障が出ていない」とする点だ。これが環境の変化などで学校に行けないとなると「日常生活に支障が出ている」ため、不安症とされる。また身体的症状が出るのも特徴で、そうした場合は「HSCであるところに重大なストレスがかかって不安症を発症した」という診断になる。
また、HSCは専門家が知らないことにより発達障害と誤診されることも少なくない。小学校3年生の男の子の事例では、1年生のころから友だちとトラブルを起こす、授業に集中できない、字を書けないといったことから発達障害が疑われた。診断では生育歴を見ることが重要であり、5歳で引っ越して1週間泣き続けたこと、問題を起こすたびに父親が叱り、怒鳴り散らすことがあったこと、また家では宿題をやったと嘘をつくなどの行動もあったという。その結果、発達の遅れの指摘は特にないものの、環境の変化に敏感との観察がなされた。
なお、すららネットでは「KABC-Ⅱ」を行っている。「KABC-Ⅱ」は知能に加えて習得尺度(基礎学力)も測定することができ、その子ども本来の能力をより詳しく理解することができる。「WISC(ウィスク)」だけでは学習障害の診断を行うことはできない。すららネットでの目的は、診断することではなく、その子どもがどのような情報処理を行っているのか、そしてどのくらいの基礎学習力がついているのかを知って改善策を考えるためだ。
当該の子どもの場合、認知総合尺度は平均値、計画尺度・学習尺度とも平均より高く、習得尺度としては表現語彙が実年齢よりも2学年上であるのに対し、書きの尺度は70で、100人中、下から2~3番目の結果となった。この数値だけを見ると学習障害と疑われるが、違っていたという。行動観察からADHDの傾向は見られなかったが、直されることに抵抗を感じ、漢字も間違いを恐れて完璧に覚えているものだけを書いていた。その点についてはHSCの傾向と一致している。
また本人の会話を通して、宿題をやっていても「間違っているかもしれない」という不安が強く、提出を拒否したり、先生の語尾の口調(「~しろよ」などの命令口調)が怖く、不安に感じるために授業に集中できなかったりしていることがわかった。さらに、友だちに傷つくことを言われると敏感に反応し、言語能力の高さから相手を責めてしまい、それを先生から注意されても友だちをかばって本当のことを言わないこともわかってきた。先生は友だちと良好な関係が築けないと判断し、家に連絡する。すると、親に怒られることを不安に思い、おなかが痛くなる症状として表れていたのだ。
道地氏は「HSCと言うと繊細なタイプを思い浮かべるかもしれないが、実はドラえもんのジャイアンのようなタイプもありうる」と解説。この悪循環が長期化すれば、不安症になってしまう可能性もあったという。