多様性と自由を重視した校風の関西学院千里国際中等部・高等部
筆者は、関西学院千里国際中等部・高等部で技術科、情報科の授業を担当しています。本校は中高一貫校で、海外帰国生徒を積極的に受け入れていることから、生徒の半数が海外帰国生または海外のバックグラウンドを持っています。また、敷地内に大阪インターナショナルスクールが併設されており、「Two Schools Together(二つで一つの学校)」という方針のもと、体育、美術、音楽などの一部の授業を一緒に行っています。
多様性のある校風で、生徒の自主性を重んじており、校則や制服がありません。校則の代わりに「5リスペクト」という教育指針を掲げています。5リスペクトとは、「自分」「他の人」「学習」「環境」「リーダーシップ」の5つを大切にしようという方針です。生徒の行動や身だしなみなどを制限するのではなく、何でもできることを前提に、大切にするべきことを定め、行動を振り返る機会を用意しているのです。
ICT教育においては、BYOD(Bring Your Own Device)を方針としており、それぞれ自分で用意した端末を持参し、授業で活用するようにしています。
本校では、高校生の必修科目である「情報Ⅰ」の授業を10科目に分けて、生徒はその中から選択して履修することになっています。本記事で紹介するのは「コンテンツテクノロジー」の科目で実施した授業です。コンテンツテクノロジーはコンテンツ制作に重きを置いた授業で、情報の受け手にわかりやすく伝えることを目指しています。
課題解決✕デザイン思考で「エモい」コンテンツを作ろう!
コンテンツテクノロジーの科目で実施したのが、課題解決のためのデザイン思考をベースに「エモい」コンテンツを制作することです。情報の学習指導要領では、問題の発見と解決が重視されていますが、課題解決型のデザインをするにはスキルが必要ですし、非常に難しい取り組みと言えます。その課題解決のアプローチのひとつとして、デザイン思考が挙げられます。デザイン思考は、相手への共感から始まります。そこで授業では、まず相手のことを考えて共感し、その課題解決のためのデザインに、感情、エモさを加えて表現することを目指しました。
課題解決のデザインが難しい部分は、例えば次の2つが考えられます。1つ目は、相手が感じている問題を本当に問題と感じること(デザイン思考のプロセスでは「共感」)。そして2つ目が、情報を分解して再構成するデザイン力(デザイン思考の「定義」「概念化」「試行」)が求められることです。再構成するデザインが、自己表現であるアートに偏ってしまうと自分の価値観を表現するだけになり、課題解決からは外れてしまいます。アートはむしろ課題を提起するものなので、本課題においては課題の提起と解決型のその中間を狙った取り組みとなりました。
なお、本校では授業の指針として「6Cs」を重視しています。6Csとは「Character」「Citizenship」「Collaboration」「Communication」「Creativity」「Critical Thinking」のことで、授業の構成においてはこの6つを意識して考えました。
そして若い世代でよく使われる「エモい」という表現について、このエモいが実際どのような感情であるのか、生徒たちと話し合ってみました。人によって「感動的」「感傷的」「ノスタルジック」「情緒がある」「哀愁がある」など、異なるイメージがあり、漠然としたさまざまな感情表現に使われていることがわかりました。
課題を通して、次の3つを意識して取り組むことを生徒たちに伝えました。
1.感情の科学化
人々の心を揺さぶる要素を科学的に探究し、それをコンテンツ制作に活かす能力を身につけます。「エモーショナルな要素」とは一体何でしょうか?
2.偶然と必然の計算
偶然と必然の要素を計算し組み合わせ、メディア制作の側面からアプローチします。それらを芸術的な表現に結びつける技術を身につけます。
3.自己表現と他者視点への対応
自身の世界観や価値観を表現するメディアを制作する一方で、クライアントのニーズを理解し、新たな価値あるメディアを提供する能力を養います。自己表現とクライアントの要求をバランスよく融合し、新しい価値を生み出すスキルを身につけます。