生成AIの可能性を感じ、防災教育で取り入れる
和光学園は、自由な環境の中で、一人ひとりの自主性と個性を伸ばしていくことを学校教育目標として掲げ、学校の中で出会うさまざまな人たちと共に学習し、意見を交わすことの大切さを伝えています。授業でのICT活用に積極的で、連載「クリエイティビティを伸ばす授業とは? ICTを活用した教育の最前線」では、中学校での実践となりますが、教科横断した授業の事例について紹介しました。
生成AIについても積極的な活用を検討しており、高等部の第1回新入生保護者会で、生成AIを授業に取り入れることとその意義について説明し、保護者から同意書を頂きました。
今回紹介するのは、高校1年生必修の「情報Ⅰ」の授業における生成AIの活用です。和光学園では東日本大震災以降、毎年9月に情報Ⅰの授業で防災教育を取り入れています。東日本大震災から年月が経ち、当時幼かった生徒たちは震災の記憶がほぼありません。直近でも能登半島地震など大きな災害が発生し、被災地に思いをはせるものの、ほかの地域で発生したことは「自分ごと」にはなりにくいのが実情です。
これまでの防災教育では、関東でマグニチュード7クラスの地震が発生したことを想定し、被害状況、自分の生活圏での津波やがけくずれなどの発生の危険性、公共交通機関やライフラインへの影響度合いなどの情報を収集・整理し、被災した場所から自宅に帰るまでの道のりを、Googleマップを見て考えるという課題を実施していました。
2023年度は生成AIが注目されて、教育現場に取り入れるかどうかの議論が行われるようになりました。筆者は実際に自分で使ってみて、生成AIが学習にもたらす大きな可能性を実感しました。そして、2023年8月に「Adobe Express」に生成AI機能「Adobe Firefly」が搭載され、学校でも安心して使える画像生成AIが提供されたことをきっかけに、防災教育で活用することを決めました。
被災したら何が起こるのか? 生成AIを活用して作る「被災ジャーナル」
では、防災教育で生成AIをどう活用するのか。ヒントになったのが、慶應義塾大学環境情報学部准教授の大木聖子教授が提唱する「防災小説」です。防災小説とは、近未来のある1日に巨大地震が発生したと想定し、自分を主人公とした物語を800字程度でつづるものです。自分や家族がどこにいるのか、街の様子はどうなるのかを想定し、そのときの自分の心情を考えます。作品は「終わりに必ず希望が持てるエンディングとすること」をルールにしています。
この取り組みにインスパイアされ、情報Ⅰの授業では、これまでの防災教育に加えて生成AIの力を借りながら物語を作り、画像生成AIを使って挿絵を添えることにしました。「被災ジャーナル」と名付けて、生徒一人ひとりが取り組む課題とし、災害時の課題解決とまではいかないかもしれませんが、被災したときの自分なりの対応策を見いだすことを目的にしました。
実施した2023年は関東大震災100周年ということもあり、NHKで特別番組が放送されたほか、新聞やニュースなどでも当時の状況が紹介されるなど、参考になる資料がたくさんありました。
物語の創作においては、リサーチした内容を踏まえると共に、生成AIの情報も取り入れるようにしましたが、生成AIは一般論を返してくるので、そのときに自分がどう感じたのかは、自ら加工・編集していく必要がありました。何度も生成AIと対話する中で、どのような入力があると何が返ってくるのか、生徒は自分で体験しながら学びました。
生成AIのいいところは、質問を何回しても嫌がらずに回答を返すことです。生徒は、思考を深めるためのチューター、アドバイザーのような役割として生成AIをとらえていました。
画像生成についても同様に、自分の物語を補完する画像を生成するために、何度もプロンプトを変えながら生成しました。例えば「富士山が噴火する、津波が押し寄せるという画像は、自分の地域には当てはまらないから、もう一度状況を整理して伝えよう」というように、課題を通してこれまでの学習ではなかった新しい学びを経験できたと思います。
生成AIを使えば、一瞬できれいな画像ができる、文章ができるというのは幻想で、使いこなすためには人間が工夫する必要があるということを、生徒は生成AIを使って制作をする中で実感することができました。