文化学園杉並が3OS、4種類の端末を導入した経緯とは?
2019年12月20日、一般社団法人iOSコンソーシアムは「『学校PC一人1台』先進校に聞く、導入への道と課題共有会」と題した勉強会を実施した。冒頭、同コンソーシアム代表理事の野本竜哉氏は、「GIGAスクール構想」について簡単に説明し、「これから1人1台に取り組む教育関係者の参考になるよう、先進校の課題を共有したい」と勉強会の趣旨を述べた。最初に断っておくと、「iOS」コンソーシアムだからといって、iPad推しの勉強会ではない。
勉強会のゲストスピーカーに招かれたのは、iPadとChromebook、Windows、3OSすべての導入実績を持つ文化学園大学杉並中学・高等学校(東京都杉並区・以下、文化学園大学杉並)の奥津憲人教諭だ。同教諭は教育現場から見た3OSのメリット・デメリットや、導入のポイントについて語った。
まずは、簡単に文化学園大学杉並の学校紹介から。同校は共学の私立中高一貫校。大学受験を見据えた3つのコースを設置し、中でも特徴的なのは、高校に設けられた「ダブルディプロマコース(DDコース)」だ。同コースは日本の高校卒業資格とともに、カナダのブリティッシュ・コロンビア州(BC州)の卒業資格も取得できると人気がある。
文化学園大学杉並が最初に端末を導入したのは2014年。特定のコースではあったが、新中学1年生を対象にiPadを導入した。当時は「ロイロノート・スクール」のような教育用ツールがiPadに多かったことが選択理由だった。
続いて2015年には、ダブルディプロマコースに対して、MacBookを導入。これは、カナダ人教員からの要望であったという。その後、2017年になると、今度は普通科の新入生を対象に1人1台を本格実施。このときは、キーボードが必要、iPadが高価であるという理由からChromebookを選択した。それから2年ほどChromebookを運用した後、故障対応による教員の負担が増えたことから、2019年度の新入生からはWindowsのSurface Goに切り替えた。MacBookの運用は2018年度で終了したものの、同校では現在、それ以外の3種類の端末が稼働している状態だ。
導入前に考えておきたいこと――生徒1人1台の前に、教員に1人1台
奥津教諭はまず、1人1台を実施するにあたって、現場でどのような「ハードル」や「壁」が生じるかについて述べた。たとえ、どんなに条件の良い端末を導入したとしても、導入のアプローチや、教員の受け入れ体制によって、その後の運用が大きく変わるからだ。
導入のアプローチとして多いのは、管理職からのトップダウン。その場合、ICTの得意な教員に白羽の矢が立ち、導入から管理・運用までの業務が任されることが多い。
文化学園大学杉並も同様だったという。奥津教諭は「管理職のトップダウンで導入を進めた場合、現場では『一般教員の理解とスキルアップ』『分掌としての仕事負担』『どこまで教員がやるか』という3つの壁が生まれる」と説明した。
奥津教諭は、一般教員のスキルアップが特に大きな課題になると言及。自身の経験に基づいて「教員のスキルアップのためには、生徒1人1台を導入する前に教員1人1台を実施したほうがいい。本校はそうではなく、生徒と教員が同時スタートだったため、困難な事態が多々あった」と正直な感想を聞かせてくれた。
また、教員のスキルアップの方法として、「『外部の研修会に行って勉強してきてください』は教員の負担が大きく、学校の内部で勉強会ができる体制が望ましい」と奥津教諭は話す。ただでさえ業務が多い中、これ以上負担が増えてしまっては、端末を使わない教員が増えてしまう。
一方で、「公開授業はタブレットの稼働率の向上につながる」と同教諭。「タブレットを使える教員も、そうでない教員も、全員が必ず使う公開授業を実施すると全体のスキルアップにつながる。最初は無理やりでも、公開授業を機に使う教員が増える」と述べた。
加えて、奥津教諭は1人1台を実施する前に「想定される懸念点」についても取り上げた。「教員は保証があれば大丈夫だと思ってしまうが、生徒たちは予想以上に端末を丁寧に扱わない」こと。「端末が古くなったときや、スペックの問題などで電池が1日もたない場合は、学校で充電させるかどうか」。そして、「費用の問題」についても。タブレットで有料のデジタル教材を使う場合、保護者の負担が増えてしまう。「紙の教材を減らして調整するのか、それとも、保護者への理解を求めるのか、こうした点もタブレット導入の前に検討しておきたい点だ」と説明した。