学校以外における探求学習やキャリア教育の可能性に期待
こうしたSASの活動の背景には、世界全体でデータサイエンスを取り扱える人材に対する社会的なニーズが高まっていることがある。特に日本では他国に比べて出遅れた感も否めず、早急な人材育成が求められている。
国としても総務省を中心に統計教育重視の方針が打ち出され、データ分析を担う人材に係る問題として、社会人や大学生に対するデータサイエンス教育などに加えて、「初等中等教育における統計教育の更なる充実、総合化」が掲げられており、公教育の現場でも関心が高まってきた。
今回のイベントにオブザーバーとして参加した、玉川学園 学園マルチメディアリソースセンターセンター長の伊部敏之氏は、今回のSASの取り組みを「裾野を広げるという意味で、小学生の探求学習の基礎的な部分を担う方法として理想的」と評価した。
「2020年度の小学校の学習指導要領改定に伴い、新しい教育の枠の中では情報活用能力や、プレゼンのような自分の言葉で発する言語力、課題に対する解決力や新たな問題を発見する力など、新たな能力育成が重視されています。今回のような学びを小学生の頃から繰り返し、成功体験を得ることで、社会人に至るまでに『答えの定まらないテーマに向かい合う力』を育むことができるのではないかと感じました」(伊部氏)
また、実践女子大学 人間社会学部人間社会学科の主任教授である竹内光悦氏は内容はもとより、「ファシリテーターが子どもたちに気づきを与え、伝える力を育む方法としても学ばせていただいた」と語る。
「スタッフの皆さんがデータの扱い方や表現の仕方について、教えるのではなく気づかせる手法で伝えていたのが印象的でした。データサイエンス教育は単にデータを扱うだけでなく、どのように伝えると伝わるのか、“伝え方”も重要な要素であることが伺えました。エキスパートの方の生きた言葉遣いも子どもたちには響いたでしょうし、先生や学生たちにも体験させたいプログラムだと思いました」(竹内氏)
そして、伊部氏は、こうした探求学習のプログラムを企業が提供することの可能性についても期待を寄せる。
「これまで教育のほとんどを学校が引き受けてきた感がありますが、そろそろ学校だけでは難しくなってきています。求められるものが増える一方で、学校組織や仕組みはほとんど変わることがなく、教員に掛かる負担が異常に増大していることも大きな問題でしょう。企業や地域の力を借りて分散化し、社会全体で学びの機会を提供することが求められるのは必然であり、そのすみ分けの事例としてもいい機会だと思います」(伊部氏)
「専門家の生きた言葉が魅力的であると同時に、時に伝わりにくいこともあるでしょう。それを教員がキャッチして子どもたちがどう反応するのかを見ながら伝えることで、より効果的な学びが可能になるのではないでしょうか。そのためにも、チューター役として先生とエキスパートが混在したイベントなども有効かと思います。また、キャリア教育としても、新しい職業としてデータサイエンティストの仕事や働き方、社会的な価値を創出する場面を見せることができたらよいでしょうね。ただそのためには、先生側にも新たな職業や仕事に対する理解が必要だと思うので、並行して行えればと思います」(竹内氏)
さらに竹内氏からは親子だけでなく、子ども同士でのグループワークをとり入れることの可能性が語られた。「実際、国際的なデータサイエンスコンクールでは参加条件が2人以上であり、さまざまな人と協力しあいながら課題発見から分析、提言まで行なっていきます。グループワークの楽しさ、難しさを体験できれば、さらに学びとしてプラスになるのではないかと思います」
そして伊部氏は今後について「正解のある問題についてはAIが解決する時代に、これまでの日本の教育は正解のない『生きた問題』に取り組んでこなかったという反省があります。しかし、基礎学習を徹底して行なったことは強みであり、掃除やホームルームなどは優れた『生きた学び』の機会と言えるでしょう。既存の教育を踏まえ、その上で何を変えて、何を加えるのか、今回のイベントからそのヒントをいただいたように思います」と語った。