SASが掲げる「Data for Good」の活動の一環として開催
「すごいでしょう、子どもたちの集中ぶりに驚きますよね」と堀田氏。「実は自身も親である社員が、自分の子どもも含めて『自由研究を兼ねてデータサイエンスに触れられる機会を提供できないか』といい出したことが発端なんです」
当初は予算化もせず、「とりあえず」やってみたところ反響が大きく、少しずつ試行錯誤しながらイベントのフォーマットを変えていったという。
「最初はテーマとローデータ(加工前の生データ)を持ってきて分析することからはじめていたのですが、丸一日かかって子どもたちもクタクタに疲れてしまう。そこで“データプレパレーション”として、データの収集から整理までをご家庭でやっていただくことにしたんです。こちらから用意したパッケージに基づき、事前準備を1か月弱かけて行なっていただきました。ご準備いただくことで、イベントではすぐにポスターに取りかかれ、プレゼンテーションという『みんなでやること』に集中できると考えたんです」
データプレパレーション
ビジネス目的などで簡単に分析できる形式に、生データを前処理する行為のこと。データ元が複数になる場合を含む。
今回のイベントでは、2日間でのべ60名ものSASジャパンの社員がボランティアスタッフとなり、各テーブルで参加者にアドバイスを行なったり、作業を手伝ったりしている。質問されてはじめて答えるスタンスで、参加者の自由な発想や表現をできるだけ妨げないことを重視した。
「社員はあくまでサポートであり、コーチングに徹しましょうと。最終的に表彰はするものの、やり遂げたという達成感や、親子で取り組んだという楽しい記憶をつくることを優先し、競争にならないように意識してほしいと指示しました。スタッフのカラフルなTシャツもバルーンで飾られた会場も、データサイエンスの体験を楽しい思い出にしてほしくて取り入れました」
確かに親子で自由研究に取り組むとなるとテーマがデータサイエンスに限らず、ケンカになるという家庭も少なくないはず。しかし、第三者のエキスパートを介することで協力する楽しさや、目標に向けて一歩先に進んだコミュニケーションが実現するというわけだ。
「例えば、子どもの突拍子もないアイディアをどう表現するか。親なら『止めておきなさい』という場面でも、プロならどうアドバイスするか。スタッフは普段使わない脳を使って楽しかったと言っていましたね(笑)」
そして、印象的だったのが、シールやマスキングテープ、マジックなどアナログな道具を使った作業に特化していたことだ。近年、子ども向けのイベントではICTツールを用いたプログラミングや作画が増えた印象があるが、今回のプレゼンテーション用ポスターはあくまで手作り。いつもはハイエンドな分析ツールを使っているSASの社員も嬉々としてハサミやテープと格闘していた。
「今のテクノロジーはデータを入れるとそのデータにふさわしいグラフまで考えて描いてくれます。SASもそうしたツールを使って、どんな人でもアナリティクスを実現できる社会することを目標に掲げています。しかし、それができるのはアナリティクスの基本が分かっていてこそ。知りたいことを解き明かすにはどんなデータを集めればいいのか、座標で時系列に点をおくとどんな意味が見えてくるのか、分かりやすくするためにはどんな工夫が必要なのか――そうしたアナリティクスの本来の楽しみに触れてほしいのです」
もともとSASは『Data for Good』を理念に掲げ、データを社会貢献のために役立てることを強く意識して事業を展開してきた会社である。創業者がノースキャロライナ州立大学の大学院生だった頃、研究データの分析のために同僚とともにプラットフォームを開発したことが設立の起点で、教育への貢献も事業の柱の一つとして掲げている。
「SASは、大学や企業、行政機関との連携で人材育成を展開し、中高生などに対しても機会を提供してきました。今回はその取組枠内ではなく、いわば番外編に当たりますが、目的や思いはまったく同じものです。今後はさらに連続性を意識して、中高生へのキャリア教育など職業を選ぶエントリーポイントにも関わることができないかと思っています。また先生や教育者を目指す学生など、データサイエンス体験を提供する人の育成にも取り組んでいきたいと考えています」