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マンションの部屋で茂るハーブと葉野菜の秘密とは?
佐々木さんの自宅マンションのお部屋では、キッチン脇の棚でシソやバジル、リーフレタス、サンチュなどの葉物野菜やハーブが青々と茂っています。よく見ると、容器の端からひょろりと配線が伸び、その先にはやや場違い感がある小さなコンピューターらしきものがひとつ。また、水を張った小さなボウルからはホースが伸び、植物の根元に装着されています。
コンピューターにはセンサーが接続されており、二酸化炭素濃度や明るさ、温度、水分などが自動で計測され、しきい値を超えると自動的に水やりがされるようになっています。さらにセンサーで取得した数値データは蓄積されるため、外出先からスマートフォンなどで様子を見ることもできます。まさに野菜にとってはいたれつくせりの環境と言えるでしょう。
「こちらは西向きの窓であまり野菜づくりには向かないのですが、かなり元気に茂っています。また、屋外で育てるよりも虫がつきにくいため、農薬を使わなくて済みます。伸びてきた葉を摘んでさっと洗ってサンドイッチにしたり、お弁当の彩りにしたり。ちょっとだけ使う時にもすごく便利なんですよ。傷みやすいハーブも香りの良い生のままで随時使えますし、特にミントはすごく茂るので、モヒートにたっぷり使うこともあります」
そうちょっぴり自慢げに語る男性は、佐々木健介さん。宮崎に本社を持つ、農業系スタートアップである株式会社Fagriの代表であり、コンサルタントとしても活躍しています。多忙な日々をぬって、この「IoTキッチンガーデン」の装置を手作りし、その動画講座を8月から「Udemy」で公開しました。
最先端の技術を難しいプログラミングなしで体験してみる
ではこのIoTキッチンガーデン、実際にどのような仕組みになっているのか、佐々木さんに紹介していただきましょう。
「まずセンサーは二酸化炭素と水量、日照、温度の4種類。つないでサンプルプログラムを実行するだけで、センサー機能を利用することができます。センサーで取得したデータは『Raspberry Pi』を通じて数値化され、水量が下がりしきい値を超えると、自動で指定した時間、水が供給されます。またデータはモニターに表示されるとともに、Wi-Fiからインターネットを介して、Google スプレッドシートに蓄積されていきます」
Raspberry Piは小型、低消費電力で、シンプルかつ安価なコンピューターのひとつです。当初は教育用の低価格コンピューターとして開発され、実際に学校教育の現場やプログラミングスクールなどでさまざまな使い方がされています。現在は他のデバイスと組み合わせて産業用にも使われるようになりました。
今回の講座で使用するRaspberry Piは4つのセンサー、1つのスイッチとつなげ、サンプルプログラムを用いて制御を行います。例えば、センサーの水量がどのくらいならスイッチが入り、何秒経過したらOFFになるかなど、設定した値によって動的な制御ができるのです。
ここまで読んで「なんだか難しそう……」そう感じる方もいるかもしれません。しかし、佐々木さんは「その心配は不要です」と話します。
「プログラミング初心者の方や親子で取り組みたい方、センサーやRaspberry Piを使った授業をやってみたい学校の先生にもオススメです。私自身もプログラマーではありません。サンプルプログラムをしっかり準備してあるので、小学校高学年のお子さんなら十分取り組めると思います。ただ電気工作は危険も伴うので、保護者の付き添いのもとで作るようにしてくださいね」
先日開催されたDIYの展示発表会「Maker Faire Tokyo 2019」でも「IoTキッチンガーデン講座」が紹介され、農業IoTを体験したい方やRaspberry Piを使ってみたかった方、夏休みの自由研究にしたい方などから大きな反響があったそうです。
「基本的にプログラムのコードは書かずに、他の人が作成したオープンソース(無償公開されており、誰でも利用できるソースコード)をうまく使うようにしました。そのため、技術的背景を知らない初心者であっても、動画講座をそのまま真似していただければ作れるようになっています。Raspberry Piを使ったセンサーシステムは書籍でも作り方が出ていますが、情報量が多いのでかえって混乱しがち。映像は自分のペースで映像を見ながらその通りに作れるので、プログラミングが初めての方にもオススメの勉強法ですね」
ポイントはRaspberry Piの設定とセンサーの接続、そしてスイッチの制御にサンプルプログラムを使うこと……といたって簡単。それ以上にシステムを作った後の試行錯誤が楽しいと言います。
「なぜかパクチーだけが発芽しなかったり、枯れそうになっていたハーブが、気づいたら復活して元気になっていたり、植物は本当に気まぐれです。でも、例えば温州みかんは地温がある温度以下になった時に一気に熟し、最も甘くなるといった研究があるなど、目の前の結果には必ず原因が存在します。そんなふうに、IoTで取得した数値を見比べながら、最適な栽培法を見つけるのも面白いかもしれません。
私も最近、安価なLEDライトと高価な植物専用ライトを比較して、植物の種類によっては、どちらも同じように生育することに気が付きました。また、データを保存しておけば偶然うまくいった時も環境を真似して再現できるかもしれません。日陰と日なたの比較もセンサーがあると、数値化されて面白いと思います。IoTシステムは作るだけでなく情報を活用して試行錯誤すると、より楽しめるはずです。ぜひ、作ったその後もいろいろと試してみてくださいね」
このIoTキッチンガーデン講座はトータル2時間の分量となっています。順番に進めていくと、自然にシステムを作り上げることができます。