(前編はこちら)
母親の「申し訳ない」をなくしたかった
――テックパーク設立に至った経緯やきっかけを教えていただけますか。
佐々木久美子氏(以下、佐々木):自分が子どもを預けたいと思える場所がなかったのが一番のきっかけです。私はずっとエンジニアとして働いていましたが、自分の上の子が小さかったときから、下の子が小学校3年生になった今まで、この15~20年近く状況は何も変わらなかった。国や行政の動きを待つより、自分で作った方が早いと思いました。
それから、保護者の抱く「預けている罪悪感」を取りたい気持ちが強かった。「預ける」って、仕事を休んだり早退したりして子どもを迎えに行くと会社に申し訳ないし、子どもにも申し訳ないんですよ。それで、放課後にぼーっとゲームをするだけの場所、居場所の確保のための場所というのではなくて、将来につながることを楽しみながらやってもらえる場所だったら、預けている罪悪感がなくなるかなと思いました。親が安心するためには、子どもが楽しく学んでいるか、子どもがちゃんと成長しているかが重要なので。そんな環境づくりを、せめてうちの会社ではやれたらいいなぁっていうのが、最初の発想です。
――具体的に事業として考え始めたのはいつごろですか。
佐々木:具体的な構想を抱いたのは、5年前ですね。それ以前には、グーグルとかアップルが学校を持っているように、会社の中で預かって……といったぼんやりとしたイメージだけがありました。最初は、「社員のために」っていう発想だったので。
具体的に動こうと思ったときに、昔から知り合いだった西鉄さんに、場所を貸してくださいと頼みました。空いているスペースあるでしょ、と。ですが逆に「空いている場所はないけど、このビルを建てるからそこでやって」と言われてしまったんです。テックパークを作ることを条件に、グルーヴノーツごとビルに入りませんか、と。最初は、うちはベンチャーでそんなに大きな規模でもないので、と断りましたが、前のオフィスがちょっと手狭になるのが2年後の予定だったんですよ。そうなると、どっちみち引っ越さなきゃいけない。いいタイミングだと思って、思い切って会社ごと移転、事業化してスタートする形になりました。
――ビジネスとしては回っているんでしょうか?
佐々木:いや、そんなに回っていないです。黒字が出ているかというとそんなに出てはいないです。ただし、事業としてやるから回る、という感じですね。家賃と人件費だけなので。トントンにするためには人を増やさなきゃいけないんでしょうけれども、それでクオリティーが下がることを私は懸念していて。やっぱり、コンピュータが好きな子に来てもらって、一人ひとりにちゃんと学んでほしいんです。
「あいさつ」か「コンピュータ」か? 両親たちの理想の乖離(かいり)
――運営して初めて分かったことや意外な発見はありますか?
佐々木:最初のころは、ご家庭のお父さんとお母さんの持っている理想の違いに戸惑うこともありました。例えば、母親は基本的な生活の話……コンピュータじゃなくて、人間として基礎的なことをできるようになってほしいと考えている。あいさつができる、「ごめんなさい」や「ありがとう」を言える、といったことが大事だと。コンピュータの前にやることやれ、みたいな。一方で、父親としてはコンピュータのスキルをもっと上げてほしいと思っている。そんな、生活の部分と ITとの理想の乖離(かいり)っていうんですかね。その間に挟まれていると感じることはありました。
それともう1つは、1年生から6年生までお預かりしている中で、私たちはこれが当たり前にできると思っていたことが、実は低学年の子たちには難しすぎてできない、といった、学力のレベルを把握できていないことがありました。例えば、そもそも漢字を習ってない、そもそも足し算、掛け算を習っていないとか。私たちは知っていて当たり前のことが、学年によって知らない。だからこれも当たり前なんですが、ローマ字を知らないんです。つまりタイピングもできない。「あ、そこから」っていう発見はかなり多かったです。
それから、子どものコンピュータにおける一定の動きを制御するペアレントモード。ある作業をしようとすると、必ずセキュリティーがかかることもしょっちゅうでした。家庭とこちらとで、そういったリテラシーに対する考え方の違いは、すごく感じます。最初はそれに気付けずに、「えっ!」と思っていました。今は、コンピュータの作業上必要なことを、最初に必ず親御さんに伝えるようにしています。