子どもにとっての「未来の教室」とはどうあるべきか
パネルディスカッションは以下3つのテーマで実施された。
【1】学習者中心の「未来の教室」のカタチ
文理融合・産学連携のSTEM/STEAMプログラム、AIを活用した個別最適化学習の発展により、学び方を、学校現場をいかに変えるか。
【2】「新・社会人基礎力」とリカレント教育
日本の地方やアジアの社会課題現場を用いた実践的リカレント教育プログラム、第4次産業革命時代の能力開発プログラムをいかに作り上げるか。
【3】教室を科学する
保育所や小中学校の「働き方改革」「学び方改革」のため、業務仕分けやセンシングを活用し、充実した学びの環境をいかに作るか。
まず、1つ目の「学習者中心の「未来の教室」のカタチ」では、主に「子どもにとっての『未来の教室』とは何か、どうあるべきか」といった観点からパネルディスカッションが行われた。まず、経済産業省 商務サービスグループ 教育産業室長の浅野大介氏が、「子どもにとっての『働き方改革』=『学びの生産性向上』ではないか」と提言。つまり、「何のために学ぶのか」という「マイ・プロジェクト」が重要であり、その学びにおいてAIなどの技術を活用し、効率的に勉強を進めることが求められるというわけだ。
つまり、今後の教育改革には、「(1)スポーツや音楽、アート、地域や世界の社会課題、先端科学の課題、身近な生活課題など『マイ・プロジェクト』となる『ワクワク』を見い出すきっかけを学習者に応じて用意する」「(2)出会った興味・関心を『マイ・プロジェクト』として追求し、実践するために何を学べばよいのか整理し、教科学習へとつなげる」「(3)学習ログやAIなど技術を駆使して個別最適化した学びにより、より深く理解し時間の短縮を図る」「(4)捻出された時間をさらに探求し、ワクワクを広げるための学びや体験に充てる」これら4ステップによるサイクルの創出が求められる。
「『未来の教室』とEdTech研究会」の委員を務める、数学の研究者でジャズピアニストでもある中島さち子氏は、「音楽と数学の構造は似ている。たとえば、音楽はロジックと感性を両方使いながら生まれてくる。そこで音楽をロジカルに捉えてプログラミングをする取り組みを、MITメディアラボの協力のもとで行ってみたいと思う。また、スポーツでも経験や感性以外で、ロジカルにデータとして捉えるというアプローチもあるはず。分野や国を超え、これまでとは違う教育哲学を考えていきたい」と語った。さらに徳島の商業高校がカンボジアの友好都市を支援するために事業を立ち上げるプロジェクトを行っていることを紹介し、「子どもたちは課題を見つけると、自発的にどんどん学び、実践する」とたたえた。
プログラミング教育事業者であるライフイズテックの讃井康智氏は、福岡県飯塚市の中高生が地域課題を解決するWebサイトのデザインや映像などを制作するプロジェクトを紹介。「今の中高生がテクノロジーで何を作るのか、どこまでいけるのか可能性を知りたい」と話す。
東アジア初のファブラボのひとつ、「ファブラボ鎌倉」の立ち上げメンバーである渡辺ゆうか氏は、「自分の課題に対して、3Dプリンターやレーザーカッターなど、デジタルデータを用いたモノづくりで解決する」実証事業を行う。単発の授業で終わらせるのではなく、「授業をレシピ化し、さらにファブラボを学校内に設置して授業時間外の掘り下げも可能としていきたい」と意欲を語る。作品というアウトプットによる相乗効果や、モノづくりから生まれる課題意識など、さまざまな展開が期待できる。
こうした「ワクワク」のきっかけを得た後、どんどん深掘りする中で「興味を学びに変える」取り組みに挑戦するのは、通信教育のZ会だ。同社のICT事業部 マーケティング課 課長の野本竜哉氏は「普通の学校で、探究的な学びを当たり前のものとしたい。そのために、プログラミングやファブラボなどで得たワクワク感を広げる際、教科をアシストする教材を提供する」と話す。今回の実証事業では、日本大学三島中学校における家庭科の授業を通じて、「食」という身近なテーマの課題抽出から解決までを行う。その際に必要な学びが、「テクノロジーで学べる教科学習」または「人が関わる探究学習」にどう切り分けられるか見定めたいと語った。なお、その両立についての追跡調査も実施するという。
そして、保育・教育分野に特化したキャリアリンクが東京大学先端科学技術研究センターと協力して取り組むのは「教科と探求のつなぎ込み」の部分だ。同社の若江眞紀氏は「学校での学びから距離をおいてしまった子どもたちに対して、自分の学びが学校の教科の単元としてはどの部分なのか、振り返ることができる仕組みを作りたい」と語る。現状は指導要領とひも付けして利用しながら、今後は「その先の学び」をナビゲートできる仕組みとして進化させていくという。
こうした「未来の教室」の仕組みは一部の限られた人に恩恵があるのでは、という懸念も少なくない。それに対して、角川ドワンゴ学園では、ネットと通信制高校の制度を活用した新しい高校「N高等学校」を開校。幅広く多様な生徒層にとって、より良い生きる力を育むPBLの開発・提供を目指すという。同校 コミュニティ開発部 副部長の園利一郎氏は「1年目はワークショップを人力で行うが、2年目以降はさまざまなテクノロジーを活用し、遠隔でも授業ができるような形へと進化させていきたい」と語った。
パネリストが実証事業について紹介すると、それぞれの事業同士がリンクする部分も見つかった。さまざまな意見が交換され、各事業がつながっていけば「未来の教室」が実現するのではないかという期待感が生まれた。とはいえ、実証事業はまだ1回目。まだまだ足りない部分や捉え直しが必要な部分など、多くの改善が必要となることは間違いない。
経済産業省の浅野氏は「無理だ無理だと言いつつも、実際に取り組むと意外とうまくいくのは、よくある話。論より証拠で、まずはやってみて、修正や追加をしていくことが大切」と語り、それぞれの実証事業にエールを送った。