「越境する先生」が教育を強くする
──学校と民間を行き来するキャリアが当たり前になったとき、学校はどう変わると思いますか?
学校はもっとしなやかになると考えます。外の経験を持つ先生が戻ることで、現場の視野が広がります。「外で学んだことを中で活かす」「中での学びを外に持ち出す」──この往復があれば、教育が社会とつながり続けられるんです。
私は社会を動かすのは、越境した人だと思っています。1つの世界しか知らなければ、そもそも違いに気づけない。だからこそ、外で得た比較の目や実践の知恵を学校に持ち帰る先生が増えることに、大きな意味があります。
「出る=逃げる」ではなく、「学びに行く」。そう捉えられれば、離職への罪悪感も減りますし、現場に残る人の働き方にも余裕が生まれます。そして、先生のキャリアもより持続可能になるでしょう。「一度離れることが終わりではなく、学びの旅になる」という感覚が広がってほしいのです。
──学校の外へ出ることを前向きに捉えられるようになれば、現場のメンタルヘルスにもよい影響がありそうですね。
はい。「出ても戻れる」という安心感は、現場で働く人の余白をつくります。燃え尽きそうなときは一度距離を取ることが大切です。これは、精神疾患による休職者が増えている今こそ重要な視点です。学校でがんばりすぎた人が、外に出て少し休んだり、別の形で教育に関わったりできる。 その柔軟さが教育を支える土台になるでしょう。
──最後に、「戻りやすい社会」を実現するため、今現場でできることは何でしょうか?
まずは、戻ってきた人に「今の学校、どう見えますか?」と聞いてみることです。
外を知る人の声を活かすことが、学校をよりよくするヒントになります。そして、管理職が率先して外に出る人を応援する。「外に出てもいい」「また戻っておいで」と言える校長が増えれば、教育は確実に変わります。

おわりに
「学校と民間を行き来するキャリア」は、思いだけでは実現しません。「また先生になりたい」を叶えるには、仕組みが必要です。まず、戻る人に何を任せるのかをはっきりさせること。次に、どんな力を求めるのかを言葉にして共有すること。そして、歓迎の言葉や最小限のオンボーディング、小さな成功の見える化で受け入れを整えることです。
外で得た知見が人任せの熱量で終わらず、学校の力として根づくとき、出ても戻れる道は当たり前になります。戻れば活躍できる──その往復が広がるほど、教育はもっと強く、しなやかになるでしょう。
