役割を明確にして、経験を活かす
──では、学校に戻りたい人が戻れる学校にするためには、何が必要なのでしょうか?
「外の学びを学校に還元したい」という思いに応えられる学校であることが大切です。まず根づかせたいのは、外で得た経験をブランクではなく厚みとして受け止め、「活かす」文化。
そのための鍵となるのが、管理職のディレクションです。戻ってくる先生がどんな経験をし、どんなことが強みなのかを聞き取り、力が発揮できそうな役割があればお願いする。もちろん、必ずしもぴったりの役割がない場合もあります。大事なのは単に人を「配置」するのではなく、人を「活かす」文化の醸成です。
これは戻ってきた方に限った話ではありませんが、互いの強みを知り、活かし合える職場になれば、先生一人ひとりの個性を軸にしたマネジメントが可能になります。そうやって、それぞれの強みを活かす前提が当たり前になったときにこそ、「経験を持つ先生が戻って活躍できる文化」が、自然と学校の中に生まれてくるはずです。
──受け入れる側は、具体的にどのようなことを心がけるとよいのでしょうか。
戻ってくるときは誰だって不安です。まずはその不安をほどくことが大切です。「おかえりなさい」「戻ってきてくれてありがとう」と言葉で迎えられるだけでも、安心できるでしょう。あわせて、動き出しで迷わないように、意思決定の流れや校務分担、主要なICT機器・ツールの基本、連絡の窓口などをまとめておくとスムーズです。
実際に動き出した後も、例えば「ここが助かった」「この工夫が効いた」といった手応えを、雑談や週報で意識的に共有するといいでしょう。そうした小さな積み重ねによって、本人には「民間での経験がここで活きている」という実感が生まれ、周囲にも「戻ってきてよかったね」という空気が広がります。結果として、学校外の経験を持つ先生が戻って活躍できる文化が根づいていくのです。
──なるほど。実際に制度として出戻りを後押しする動きはありますか?
例えば、東京都では今年度から「キャリア採用」枠を設け、小・中・高・特別支援学校で、正規教員として8年以上の経験がある30歳以上の方を対象に、合格した時点で主任教諭として任用することを決めました。[※1]外で積み上げた経験を役割として最初から評価する設計で、「一度辞めたらゼロからやり直し」という発想を転換する大きな一歩だと思います。今後、こういった自治体の動きは広まっていくでしょう。

