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EdTechZineオンラインセミナーは、ICTで変わりつつある教育のさまざまな課題や動向にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「EdTechZine(エドテックジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々の教育実践のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

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イベントレポート(アクティブラーニング)

計算はできるのに文章題が解けない子どもたち──今井むつみ氏が語る、AI時代に不可欠な学びとは?

New Education Expo 2025「生きた知識で育む深い学び ~AI時代に認知科学から学びを考える~」レポート

知識を点から面へと拡張する「アブダクション推論」

 教師や大人が示せるのは、いわば「点」としての事例に過ぎない。例えば「ウサギ」という概念を教える際、大人ができるのは実際にウサギを指さして「これがウサギだよ」と示すことだけだ。しかし、子どもが「ウサギ」という言葉を使えるようになるためには、目の前のウサギだけでなく、色や大きさの異なる多種多様なウサギにも適用できるよう、自ら「点」を「面」に拡張する推論していかなければならない。

 この「点を面に拡張する」推論を、今井氏は人間特有の思考プロセスの「アブダクション推論」だと説明する。人間は実社会でのさまざまな経験を通して、物事の仕組みや法則、パターンを自分なりに見つけ出し、言葉では説明しにくい感覚的な知識を身につけていく。この暗黙の知識(スキーム)を通して推論を行っていくのだが、その際、人間が誰しも持っている思考の偏り、すなわち「思考のバイアス」によって、誤って推論してしまうことがしばしばあるという。

 今井氏は「人間は思考バイアスの塊だが、このバイアスがあるからこそ、学習が可能になる」とも説明する。「キリンは首が長い」という事実から「高いところの葉を食べるために首が長くなった」と逆向きの因果関係を推論する「対称性バイアス」を例に挙げ、「論理的には間違っているが、このバイアスがないと言語が習得できない」として、バイアスを持たないチンパンジーの実験を紹介した。

対称性バイアス
対称性バイアス

 ほかにも「自分の常識の過剰一般化バイアス」では、ゲージに入った動物の中から、幼児がウサギに似たハムスターをウサギと認識してしまう例を挙げた。しかし、このバイアスによってカテゴリーと呼ばれる概念を理解していくことができるため、人間にとっては重要なものであるという。

教育の目標は「自走できる学び手」

 今井氏は「アブダクション推論によって間違うことはよくないことなのか」と参加者に問いかけたうえで「そうは思わない」とし、学校現場では「子どもを間違わせないように」といった配慮が過剰に働いていると警鐘を鳴らす。

 さらに「間違うことは悪いことではない。むしろ、アブダクション推論をして間違うことは、学びにとって非常に大事なプロセスになる。もっと大事なのは、その間違いを修正する力だが、その力は、そもそも間違わなければ経験できないし、訓練もできない」と説明。

 また、精度の高いアブダクション推論をするには、よいスキーマを持つ、すなわちスキーマも修正していくことが重要だという。しかし今井氏は「自分でつくったスキーマは、他者から言われて修正できるものではない」とも指摘する。

暗黙の知識である「スキーマ」
暗黙の知識である「スキーマ」

 では、どうすればスキーマを修正していけるのか。今井氏によると、学び手が自分の間違いに自分で気づいて納得するしか、間違ったスキーマを修正する手だてはないという。「生きた知識を自分で育て、自走できる。アブダクション推論を恐れずに行い、たとえ間違っても、その間違いに自ら気づき、修正できる。そのような学び手を育てることが、教育の目標になるべきではないか」と、今井氏は強く参加者に伝えた。

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AIにはない、人間だからこそできる「記号接地」

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この記事の著者

相川 いずみ(アイカワ イズミ)

 教育ライター/編集者。パソコン週刊誌の編集を経て、現在はフリーランスとして、教育におけるデジタル活用を中心に、全国の学校を取材・執筆を行っている。渋谷区こどもテーブル「みらい区」を発足しプログラミング体験教室などを開催したほか、シニア向けサポートを行う渋谷区デジタル活用支援員としても活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


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